狩人講習:7日目・改変 (壱)
彼らが眉を顰めて疑問符つきの唸り声を上げた理由。
それは、つい十数分前に彼らが圧倒していた筈の矮小な餌が熾天使と入れ替わるように突如として現れたから──。
──……などでは、決してなく。
満を辞してとでも言わんばかりの真剣味を帯びた表情を浮かべる眼下の餌に、これといった変化が見られないからだ。
あの美しくも恐ろしい熾天使が自らの意思で円環を消さなければ、まず間違いなく彼らは滅ぼされていた筈なのに。
中断してまで、この餌に手番を譲った意味が解らない。
装備に大きな変化があれば一目で解るし、Lvが上昇していれば3匹分の眼力で見抜く事も難しくないというのに。
どこからどう見ても、あの時の矮小で惰弱な状態のまま。
そして彼らは、とある共通の結論に至る──。
『『『……WO、OOOF……ッ』』』
あぁ、そうか。
ナメられているのか、と。
あの熾天使相手に手も足も出ず圧倒、蹂躙されるだけでは飽き足らず、あろう事か悲鳴にも似た情けない断末魔さえ上げてしまった事実を、この餌はどこかに隠れて見ていて。
──今なら勝てるんじゃないか?
そう思ったがゆえに再び姿を現したのだろう、と。
そんな憶測が己らの心中で俄かに確信へと変わっていけばいくほど、ミシミシ、バキバキと鈍い音を立てて彼らの肉体が少しずつ、されど明確に、そして禍々しく変異していく。
『『『GRRR……ッ!! GOGYEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEHッ!!!』』』
おそらくは感情の昂りに反応して体内から筋肉や皮膚を突き破って露出するように仕込まれていたのだろう、まるで鋭い刃物のように研ぎ澄まされた爪や牙が全身から飛び出し。
「……それが貴方たちの本気、という事かしら」
もはや全身兵器と称しても違和感ないほどの凶悪な風体と化した人造合成種を前にしても、シェルトは動じない。
動じない、という割には一筋の冷や汗を流してしまっていたり、その表情にも僅かな恐怖が見てとれはするものの。
「……ふうっ」
カタカタと剣を持つ手が〝武者震い〟で震えている事だけは、ユニはもちろんフュリエルでさえ認めねばならぬ事。
つまり今、少女は興奮により打ち震えているのだ。
新たな職業と新たな武装を試したくて仕方がないのだ。
ゆえにシェルトは、飛び出た爪や牙の影響で全身から血液を垂れ流し、されど異常な再生力と耐久力が幸いして一切の悪影響を及ぼしていない異形も異形の人造合成種を前に。
「いきましょう、フラガラッハ──……いいえ」
「新たな相棒──〝フリューゲル〟」
構えた剣型の迷宮宝具の、新たな〝名〟を独り言つ。




