聖なる円環
彼らが目を剥いたのは、何も眩耀だけが原因ではない。
目眩しが目的ではない閃光を放つ円環に目を奪われた事も事実ではあるが、それ以上に彼らを驚愕させたのは──。
『『『WO、OOO……ッ!?』』』
一瞬の強烈な発光とともに、その円環が己らの巨躯を完全に囲んでしまえるほどの巨大な光輪と化すだけでは飽き足らず、実際にぐるりと完全に彼らを囲むように広がった事。
それに何の意味があるのかは解らない。
今のところ何の被害も及ばされてはいない。
しかし、このままではマズいと本能が警鐘を鳴らす。
3匹分どころではない、けたたましいまでの警鐘を──。
『BOW! BOWOW、BOWBOWOOOッ!!』』』
『無駄ですよ、並の力では壊せませんから』
彼らは一致団結し、3つの首で同じ箇所を狙ってみたり別々の箇所を狙ってみたりと息吹を吐いてみたが、そのどれもが〝並の力〟と切って捨てられ、円環はもちろんフュリエルの表情を微塵も崩す事ができないばかりでは留まらず。
『『『WOOFッ!?』』』
あろう事か、その光り輝く円環は──……増えた。
1つ目の円環が彼らを横にぐるりと囲むものであるのに対し、2つ目の円環は彼らを迷宮の地面を貫通しながら縦にぐるりと囲むように広がっており、その差異の理由こそ解らずとも状況が悪化した事は解る人造合成種が驚愕する一方。
『その円環は時間経過に伴い数を増やしていきます。 増えた円環は内側に存在するものを閉じ込める〝球〟を形成するよう折り重なっていき、8つ目が顕現し終えた時点で肉体の強弱もLvも問わず、内側の存在を焼滅させるのです』
『『『……ッ!?』』』
『無論、破壊や脱出が叶えばその限りではありませんが』
解説を求めているかどうかなど関係なく、ただ自己満足の為だけに【聖なる円環】について説き始めたフュリエル。
早い話この円環は次第に〝檻〟となっていき、檻として完成した暁には対象が誰であろうと問答無用で存在ごと白炎にて消し去る慈悲のない〝処刑器具〟と化すのだという。
とはいえ彼女の言う通り、一握りの中の一握りの中の一握りの強者であれば回避や反撃の手段もなくはないようだが。
『その程度の実力では、ね』
『『『〜〜ッ!!』』』
歪みながらも美しい嘲笑を向けられた事で、理解した。
もう、できる事などありはしないのだと。
しかし、それでも彼らは諦めなかった。
『『『WOOッ!! GRYYYEEEEッ!!』』』
MPの自然回復も間に合わないほどに、継ぎ接ぎが解けかけている事さえ気にかけないほどに何十、何百と全身全霊の息吹を放ち続け、息吹が通用せぬと見るや突進したり噛みついたりと試してみたが、その全てが徒労に終わってしまい。
気づけば重なる円環の数は、7つとなっていて。
『あと1つとなりましたね。 ある意味、運が良かったかもしれませんよ? あの御方は、こんなに優しくありませんから』
『『『YEEELP!! BOWOOO──』』』
脳裏に【最強の最弱職】の面影を浮かべて誇らしげに微笑むフュリエルに対し、フュリエルにさえ敵わないのにあの怪物の存在を思い出させられた事で、いよいよ戦意を絶望が上回ってしまった人造合成種の断末魔が虚しく響き。
熾天使と人造合成種の戦いは、これにて幕切れと──。
『──っと、ここまでですか』
『『『WOF……ッ!?』』』
──……なった、のは間違いないようだが。
人造合成種は、ご覧の通り生存している。
……不発、だったのか?
そう思うしかないのは解るが、どうやらそうではなく。
『言ったでしょう? 単なる〝戯れ〟だと。 これよりが真の戦い──……に、なれば良いですね。 では、ごきげんよう』
『『『E、EEE……ッ?』』』
ただ単に、フュリエルが条件を満たしたから中断したというだけであったようで、されどそれを説明もせず閃光とともに熾天使が姿を消した事で、キョロキョロと辺りを見回していた彼らの視界に見覚えのある小さな〝何か〟が映る。
「──待たせたわね、人造合成種……だったかしら」
『『『G、RORO……?』』』