戯れと呼ぶには、あまりにも
──……あの攻防から、およそ3分。
熾天使と人造合成者の戦いは、あまりに一方的で──。
『『『GRRR……ッ!! LEOOOOOOOッ!!』』』
『3つの息吹を1つに、と。 悪手ではないのでしょうが』
1つ1つでは歯が立たないなどという次元ではないと理解した彼らは、シェルトへの対空攻撃と同じように、されどあの時とは比較にもならないMPを込めた三位一体の息吹を放ったのだが、それでもフュリエルの表情は一切変わらず。
『それが通用するのは、あの人間のような雑魚までですよ』
『『『BO、WL……ッ!?』』』
先ほどのように刺し貫くどころか、スッと光槍を軽く薙ぎ払う動作1つで渾身の息吹が消し飛ばされてしまった事に目を剥いて驚いたのも束の間、アシュタルテともまた違う緩やかでありながら無駄のない飛行にて接近したフュリエルは。
『不殺とはいえ、脚の1本程度なら構いませんよね』
『『『WOO──FEEッ!?』』』
いつの間にか背後、というより足元に潜り込まれていた事へ更に驚きを露わにする人造合成種の右後脚を光槍を掠らせるだけで焼滅させたのだが、怯んだのはほんの一瞬であり。
『『『O……FOWッ、ROO……ッ!!』』』
『……ふむ』
僅かに呻いた後、グチャグチャと気が滅入るような音を立てながら脚が再生していくのを見て、『面倒な』と思うよりも先に僅かながら関心と感心を抱いていたフュリエル。
(なるほど確かに、〝再生力〟だけは目を見張るものがある)
事前にユニから聞かされていた情報、〝尋常ではない再生力の高さ〟だけは、たとえ下等生物が造り上げた下等生物に過ぎないとはいえ認めねばなるまい、とは思いつつも。
やはり、それ以外の面においては熾天使たる己が真面目に戦ってやるに足る相手ではないというのも事実であり。
どこまでいっても〝戯れ〟の範疇なのは疑いようもない。
……しかし、しかしだ。
正直この狩人講習、フュリエルは納得していなかった。
何故ユニほどの強く尊い御方が、あのような雑魚が率いる未熟者どもの世話を焼いてやらなければならないのかと。
何故、天界のNo.2たる己がユニの命令ありきとはいえあの雑魚の為に時間を稼いでやらなければならないのかと。
他の2柱、アシュタルテとテクトリカは大して気にも留めていなかったようだが、もはや己が仕える天界の支配者と同等にユニを崇めていると言っても過言ではないフュリエルにとって、この1週間は己の担当日以外でさえ苦行でしかなかったのだ。
……当のユニは何とも思っていないというのに。
そんなフュリエルの表情は今、当然ながらに曇っていると思うだろうが──……見たところ、そういう感じではなく。
何なら愉悦を感じているが如き歪んだ笑みを湛えていて。
一体、何を目論んでいるのかと問われれば──。
(それならそれで好都合、今少しばかり戯れましょうか)
戯れと称した、〝憂さ晴らし〟であったようだ。
戯れと呼ぶには、あまりにも嗜虐めいている気もするが。
心中でそう志したフュリエルは、それまで傍に控えさせるように浮遊させていた光槍を光の粒子に変え、その粒子を掬うような手つきで集約させるとともに形状を変化させていき。
『3種の神器──【聖なる円環】』
『『『ッ!?』』』
ほんの数秒で完成した小さな光輪が放つ、フュリエル自身や先の槍とも違う眩耀に、3つの首で目を剥く人造合成種。
……彼らが持つ生物としての本能は何も間違っていない。
その光は、彼らを死出の路へ誘わんとしているのだから。