表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
215/344

下位互換の失意と、そして

「……無理、ですよ。 私は転職士リワーカーを選んだんです……最初に転職士リワーカーを選んだ狩人ハンター()()()()()()()()()()()という事実を変えられず、その欠陥からも逃れられないんですから……」


「そうだね、()()()そうだ」


「え……?」


 か細い声で呟くシェルトの説明は正しく、ユニも認めている事からも疑いようのない事実として、どれだけ協会ギルド側が忠告してもなお転職士リワーカーを最初の基本職ベーシックとして選んだ狩人ハンターは、何があろうと能力値及び技能スキルの威力・効力半減かつMP(魔力)消費量倍増という途轍もない欠陥を抱え続けるというのが世の常。


 当然それはシェルトに限った話ではなく、たとえ適性がSであってもユニ以外の有象無象は同じ末路を辿るだろうが。


「けれど、あいにく私は普通じゃない。 Sランク最強にして黄金竜の世代(エル=ドラゴ)の一角、【最強の最弱職(ワーストゼロ)】だからね」


「ユニ様なら、それが可能だと……?」


「もちろん。 あぁでもその前に」


「?」


 頂点である筈の〝S〟を超えた適性、〝EX〟を持って生まれたユニであれば世の常であろうと何であろうと根底から覆してしまえるのだと断言し、ユニの表情から確かな自負を感じ取った事でシェルトが緩やかに顔を上げたのも束の間。


随時発動型技能アクティブスキルの覚醒における()()()()は知ってる?」


「え……は、はい、学園で教わりましたが……」


 その反応からすると、シェルトくらいの高等教育を受けた者やユニを始めとした優秀な狩人なら知っていて当然なのだろう、〝技能の優先順位〟についてを語り始める。


 一般的にはあまり知られていない事だが、あらゆる職業ジョブ武装アームズにおける随時発動型技能アクティブスキルには、Sランクの適性を持っていた場合に他より覚醒しやすい順位というものが存在し。


 最も覚醒しやすいものから1st、2nd、3rd、そして4thと銘打たれ、基本的には覚醒しにくい技能スキルの方が威力においても効力においても優れている事が多く。


 もちろん威力や効力以上に覚醒型技能アウェイクスキルが共通して持つ欠陥も覚醒しにくければしにくいものであるほど重くなっていくわけだが、それを加味しても4thに分類される技能スキルが覚醒するに越した事はないというのが狩人の、そして何十年にも亘って統計を取り続け順位を定めた協会ギルドの共通認識である。


 尤も、適性がSだからといって必ずしも技能スキルが覚醒するわけではない為、協会ギルド側としても余計な希望は抱かせぬよう自主的な順位の公表は控え、先達から噂程度に聞き興味を持って調べに来た優秀な狩人ハンターたちにのみ開示しているのだとか。


 ちなみに、転職士リワーカーの適性がEXという正しく頂点に位置するユニであっても全ての覚醒型技能アウェイクスキルが4thというわけでは決してなく、2ndや3rdはもちろん1stに分類される比較的弱めの覚醒型技能アウェイクスキルも修得していたりするのだが──。


「君が3つ目を選んだ場合、私は錬金術師アルケミストの〝4th〟に当たる【黄金術:生命(アルケミックライブズ)】の覚醒型技能アウェイクスキルを起動。 最初に転職士リワーカーを選択した君の過去を、それ以外の基本職ベーシックを選択したって過去に書き換える。 君を苛む欠陥もなかった事になるんだよ」


「ほ、本当にそんな事が……?」


 それはそれとして、シェルトが〝改変〟を選んだ場合に発動するのは錬金術師アルケミストの4th、【黄金術:生命(アルケミックライブズ)】が覚醒した技能スキルであるらしく、その技能を使えば〝歴史の改変〟などという神にも近い所業を成してしまえるのだとユニは断ずる。


 ……確かに、そんな事が本当に可能なのだとしたら。


 呪いの如くシェルトを蝕む欠陥から解き放たれるだけでなく、気持ち新たに基本職ベーシックを選び直し、そして真に彼女に適した合成職アドバンスに就き、ともすればあの3人と新たな関係を築く事さえできるかもしれない──まぁ、これも希望的観測だが。


「信じるか信じないかは君次第。 ただ、3つ目を選ばなければ君の未来は閉ざされるも同然だ。 さぁ、どうする?」


「わ……私、は──」


 1つ目と2つ目を選んだ時点で、その微かな希望にさえ縋る事ができないと考えれば、そんな風に言われずともすでに心は決まっていたシェルトが口を開いた──……その瞬間。


『『『〜〜ッ!! GROO、OOOッ!! BOWOOOOOOOOWOOOOOOOOOOOOOOFッ!!!』』』


「──きゃあッ!?」


 ブチッ!! という何かが勢いよく千切れる音が聞こえたかと思えば、それを即座に掻き消すような怒りに満ち満ちた大咆哮が迷宮中に轟いた事でシェルトが恐怖により蹲る一方。


「……思ったより早く解けたな」


「また、アレと戦いを……!?」


 しばらくすれば自然に解けるようにしていたのに、それを無理やり解く程度の力はあったのかとユニが若干の感心を露わにする中、先ほどの希望の見えない戦いに今の状態で身を投じる可能性を勝手に考慮して絶望するシェルトをよそに。


「フュリエル」


『ここに』


「相手してきてくれる? あぁでも倒すのは駄目だよ」


『お任せを』


(誰と、話して……?)


 わざわざシェルトに姿を見せる面倒な手順を省き、フュリエルに時間稼ぎを頼むという相手がユニでなければ苦言を呈するまでもなく消滅させられているだろう依頼を、フュリエルは嫌な顔1つせず受け入れて一礼、ふわりと飛び上がって咆哮の轟く先へ向かっていき。


「もう少しだけ時間をあげよう、しっかり考えるといい」


「ッ、はい……」


 それを見届けるまでもなくシェルトに視線を戻したユニからの、『今ここで決めてもらう』という圧力を感じ取ったシェルトは、そこに何が居たのかと疑問を抱く事も忘れ、ただひたすらに提示された3つの選択肢を改めて反芻し始めた。











(……倒すなとは言ったけど……あの娘、手加減できたっけ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ