下位互換への選択肢
ユニはあらかじめ立てていた3本の指の内、中指と薬指をパタリと下ろしつつ『2度は言わない』と留意させてから。
「1つ目は──〝離脱〟。 私が虹の橋から抜けたのと同じように、黄金の橋から君1人が抜けるんだ。 離脱後は、パーティーへ復帰さえしなければ自由にしていいとのお達しだよ」
1つ目の選択肢である離脱、つまりユニが選んだものと全く同じ〝パーティーからは抜ける事になるが、竜狩人協会に竜狩人としての籍は残す〟選択だと説明後、中指を立て。
「2つ目は──〝退職〟。 文字通り、パーティーから抜けるだけじゃなく竜狩人そのものを辞めてもらう。 そうすれば3人は後顧の憂いなく〝高み〟を目指す事ができる。 辞めた後については……まぁ協会総帥か内務大臣が便宜を図ってくれるんじゃない? 知らないし、そこまで興味もないけど」
「……ッ」
2つ目の選択肢である退職、〝パーティーから抜けるだけでなく、竜狩人としての籍も残さない〟選択である事と。
これを選んだ場合のシェルトに訪れる、決して明るくないだろうについても興味なさげに無表情かつ抑揚のない声で説明し終えたユニに対し、シェルトはみるみる表情を暗くし。
「そ、そんな……どちらを選んでも、私は……ッ」
「そう、あの3人とは離れ離れになる」
「ど……どうにか、ならないんですか……?」
たとえ苦渋の選択の後、離脱か退職かを選んだところでハーパーたち3人と自分が共に同じ未来を歩む事はないのだと流石に理解できてしまったがゆえに、どうにもならないと解っていてもなお縋るような視線を向けて違う選択肢を懇願し始めるシェルトだったが。
「その為の3つ目さ。 ちなみに、さっき提示した2つの選択肢は協会総帥が用意したもの。 だけど、これから提示する3つ目は君が先の2つを受け入れないだろう事を見越して私が用意したものだよ。 それを踏まえた上で選んでほしいな」
「……! ユニ、様が……私なんかの、為に……!?」
そもそも選択肢が3つであった事をユニの言葉で思い出したのと同時に、3つ目の選択肢はユニが用意したものであり、ユニが居なければ選択肢は2つしかなかったのだという、シェルトからすれば僥倖かつ光栄でしかない事実を聞かされた事で、じわじわと表情に希望の色が差す。
……ここまでの1週間におけるユニの厳格さや冷徹さを思えば希望を感じるのもどうかとは思うが、それはさておき。
少なくとも2つの選択肢を提示され始めてから説明終了に至るまでの僅かな間で、目と鼻の先とまで言わずとも息吹はもちろん技能や魔術も間違いなく届く距離に居る人造合成種の存在を忘れるほどに絶望していた少女の〝聞く姿勢〟が再び整ったのも事実であり。
3つ目こそがユニの本懐である以上、できれば真面目に聞いてほしかったユニとしても僥倖である為、下ろしていた薬指をスッと立てつつ眼前の少女を見据え一呼吸置いてから。
「3つ目は──〝改変〟。 君の職業を根本から変えるんだ」
「……え?」
それまでの2つとは違う、見る者が見れば解る得意げな表情と声音を添えた提示とは対照的に、ようやく色彩を取り戻しかけていたシェルトの表情は先ほどより絶望に染まり。
その瞳に微かな、されど確かな〝失意〟を思わせた。