下位互換の転移先
ユニの【通商術:転送】で転移させられたシェルト。
一体どこまで転移したのか、もしや戦場どころか迷宮そのものから遠く離れた地へ転移した実質的な〝戦力外通告〟なのではと脳内で嫌な想像をぐるぐると巡らせていたが──。
「……え? ここって──」
転移先にてシェルトの視界に映り込んできたのは、どう否定しようと見覚えしかない犬を模った石像の数々であり。
『『『G、LORRR……ッ、BOWOOO……ッ!』』』
「〜〜ッ!?」
追い討ちをかけるかのように聞こえてきた苛立ち混じりの唸り声で、シェルトはある程度の位置を把握できてしまう。
「あ、あのッ! ユニ様!? ここ、まだ──」
遠く離れた地どころか、まだ人造合成種の嗅覚で感知され得る距離であり、あの馬鹿げた威力の息吹が届く距離だと。
そう主張せんとした少女の言葉は、スッと目の前に差し出しつつ人差し指、中指、薬指を立てたユニの右手に遮られ。
「──君には、〝3つの選択肢〟がある」
「はッ!? な、何を言って……!」
「真面目な話だよ、しっかり聞いて考えるんだ」
「……ッ」
当初の予定通り、シェルトへ提示するつもりだった3つの選択肢──もとい3つの可能性についての話を始めようとするも、こんな緊急時に何をという一見すると正論にしか思えぬ叫びを上げるシェルトを、ユニは静かに制して黙らせる。
2度も3度も話すつもりはない、そう言わんばかりに。
「まず大前提として、あの3人の君との間には生涯を費やしても埋まらないほどの差がある。 実力も、そして才覚も」
「そ、れは……何も今、言わずとも……!」
そうして話を始めたユニの口からは、初っ端からシェルトを下げてハーパーたちを上げる旨の淡々とした事実の羅列しか出てこず、よりにもよって身も心も打ちのめされたばかりの自分に何故そんな仕打ちをと思わず愚痴を吐きかけるも。
「何故そうなったのか、君は解ってるよね?」
「!!」
そもそも、3人と自分との間に格差が生まれてしまった理由を理解しているだろう? という問いに対し、シェルトは愚痴も反論も全て呑み込まざるを得ないほどに驚いてしまう。
……そんな事は、わざわざ問われずとも解っていたから。
この1週間、何度〝それ〟について頭を悩ませた事か。
しかし、決して認めたくはなかった。
後悔しているなんて、絶対に思いたくはなかったが。
この戦いを通した結果、受け入れざるを得なかったのだ。
「……私、が……転職士を、選んだからです……」
転職士を選んでしまった事と、言葉にこそしなかったがユニに憧れてしまった事が全ての原因であるのだという事を。
……ここで終われば、まだ傷は浅く済んだだろう。
だが、ユニの話はここからが本題であり。
「自覚はしてるようだから、ハッキリ言おうか。 このままパーティーを継続するとあの3人は君という無用な荷物を抱え続けた結果、己の実力も才覚も何1つ十全に発揮できず在野に埋もれていく事になる。 これは私だけじゃなく、あの3人の両親や狩人協会の協会総帥も同じように考えてるんだよ」
「協会総帥、が……? それに……マスキュル家、フィーヴュ家、エンカウル家の当主や夫人たちまでもが、私を……?」
追い討ちどころか死体撃ちとでも言うべき荷物呼ばわりに加えて、ユニのみならず協会総帥やオートマタ家の格下に当たる3つの貴族からさえも無用だと、〝要らない存在〟だと認識されているという事実に、いよいよ以て足元が頼りなく感じグラグラとふらつき始めた──……まさに、その時。
「だからこその〝選択肢〟さ、シェルト。 これから提示する3つのうち、どれを選ぶかによって君の未来が決まる。 ちなみに、どれを選んでも君の仲間たちの未来は保証されるよ」
「私の……あの娘たちの、未来が……」
ここに至るまでの突き放すような声音から一転、さもシェルトの前途を想っているようでいて、その実ハーパーたちの前途をこそ重要視している旨の優しい言葉をかけられた事で、ふらついていたシェルトの瞳に仄かな光が灯り。
「……教えて、ください……どんな選択肢があるのかを……」
「もちろん。 その為の時間稼ぎだからね」
ようやく、少しでも話を聞く姿勢が整ったようだった。