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閑話:もう1つの戦場について

 ようやく対人造合成種(キマイラ)における戦闘の方針が決まった頃。


『──遅参のほど、誠に申し訳ございません。 ユニ様』


「ん? あぁ、気にしなくていいよ」


 苦戦に苦戦を重なるシェルトを無表情で見守っていたユニの元に、ハーパーたちの戦いを見守るよう命じていた筈のフュリエルがふわりと姿を現しつつ謝意を込めて頭を下げる。


 とはいえユニの言う通り、わざわざ謝らなければならぬほどの時間が経過しているわけでもなければ、そもそも『戦いが終わり次第ユニの元へ』と命じていたわけでもない為、謝る必要などどこにもないのだが、それはそれとして──。


「それで? 向こうはどんな感じで勝利したのかな」


 勝敗はまだ確認していないし、もっと言えば戦いが終わったのかどうかさえ不明瞭だというのに、ハーパーたちの勝利を微塵も疑っていない様子で報告待ちするユニだったが。


『えぇまぁ、何と言いますか……』


「?」


 返ってきたのは、何とも歯切れの悪い不満げな呟きのみ。


 一体どういう心境から、そして何を言い淀んでいるのかと疑問に思い、ユニが首をかしげて二の句を待っていると。


『……正直に申しまして、ユニ様以外の人間を評価するなど不本意極まりないのですが……()()()()──……いえ、()()()()は確かに非凡ではあるようです。 ともすれば、いずれ私ども3柱の足元に及ぶ可能性があるという程度には……』


「……へぇ、君にそこまで言わせるとは」


 シェルトの誘導1回分くらいの時間を要した後、どうやらユニ以外の人間を多少なりとも称賛する事があまりに心外だったがゆえの黙りであった事を赤裸々にしつつも、プライドの高い彼女の口から出たとは思えぬ過分な評価を下したフュリエルに、ユニは素直に驚嘆の感情を露わにする。


 もちろんユニも己の審美眼を疑ってはいなかったが、フュリエルからは辛口な評価しか返ってこなくとも仕方ないと踏んでいた立場としては、ハーパーたちがどうとかいうよりそちらの方に驚いていたようだが。


『ただ、相手も己らの身の破滅を覚悟していただけあってか相応の腕前を見せておりまして。 ユニ様が想定よりも僅かに長く戦闘を繰り広げていた事をご報告させていただきます』


「そっか、まだまだ精進は必要ってわけだ」


 想定を超えていたという意味ではフュリエルのみならずユニもまた見誤っていたらしく、ただ後を尾ける事しか能のない偏執狂ストーカーではなかったと報されたユニは、これといって機嫌を損ねる事もなく『これから幾らでも強くなれるんだし』と満足げに頷きつつ。


「あぁそうだ、そもそもの動機は聞けた?」


 そういえば直接あの3人と話をしていないばかりか顔さえ合わせていない自分は、〝尾行や襲撃の動機〟すら知らないままだったと思い出し、何の気なしに問いかける。


 すると、フュリエルは呆れたような溜息をこぼしてから。


『一言で言えば、〝逆恨み〟にございます』


「逆恨み?」


『はい、それと申しますのも──』


 逆恨み、というユニからすれば表でも裏でも幾度となく向けられてきただろう理不尽な憎悪が原因だったと明かしつつ、その詳細をもなるだけ簡潔に、そしてあの3人への憤りを露わにしながら語る。


 ひとえに、ユニが彼らの嚮導役ガイドを何度も何度も断り続け。


 年齢、性別、或いは身分が影響してかシェルトたちだけが1度で引き受けてもらえたがゆえの逆恨みであったのだと。


「──って事は、元を辿れば私のせいか……悪い事したな」


 そんな報告を聞き終えたユニは、フュリエルがこぼしたものとは違う申し訳なさが募っていそうな溜息をついた後、珍しく己に非があると断じて何かに詫びるような呟きを吐いたが。


『そのような事はあり得ません。 ユニ様の貴重なお時間を()()に割いている事も不毛だというのに、己の至らなさを棚に上げるような輩に同情の余地などある筈がないのですから』


「あぁいや、そっちじゃ──……まぁいいか別に」


 フュリエルからしてみれば、あの3人はもちろんシェルトに割いている時間自体も無駄と見て当然なのだから、謝罪も同情もくれてやる必要はないと吐き捨てたものの。


 ユニは別にあの3人に対して詫びを入れたつもりは全くなく、ハーパーたちに向けて『講習の一環として有益だったとはいえ無用な厄介事に巻き込んだ事』を詫びていたようだが。


 ユニを半ば盲信しているフュリエルにそんな事を言っても時間の無駄かと判断し、それについての言及は回避した。


 ……閑話休題。


『ところで、間もなく()()MP(魔力)が尽きるようですが?』


 ここに至るまで全くと言っていいほど触れていなかったシェルトを見て、HP(体力)もそうだがMP(魔力)がすでに枯渇寸前である事を看破したフュリエルからの微塵も気遣うつもりのない問いかけに対し、ユニは今この瞬間も懸命に抗うシェルトへ視線を向けつつ、こう告げる。


「あぁ、こっちは何の問題もないよ──」











「──今のところ、全部ぜーんぶ私の想定通りだからさ」


 悪戯が上手くいった子供が如き、無垢なる笑みとともに。

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