狩人講習:7日目・vs人造合成種 (捌)
シェルトが一連の攻防から見抜いた〝意識の非統合〟。
その時、シェルトは脳内でとはいえ──こう呟いた。
意識まで統合されてるわけじゃないんだ──……と。
それは、意識以外に統合されている何かについてを意識よりも先に気づいていなければ出ない呟きである事は明白。
シェルトが最初に気づいたのは、〝息吹袋の統合〟。
あの対空攻撃の際、3つの首全てが〝ただの魔力の塊〟という地上個体などと同じ類の息吹を放ってきた時点で、おそらく首が3つあるのに対して息吹袋は縫い合わされでもした巨大なものが1つしかないのだろうと半ば確信しており。
その憶測が正しかったのなら、息吹袋1つさえ破壊できればしばらくの間とはいえ息吹を封じてしまえるという微かな希望に繋がり得るのかもしれないが、それはさておき。
3つの首全てに確かな自意識があり、それらが全て息吹袋とは異なり統合されていないバラバラの状態にあるという事は、【化生術:集光】で息吹を逸らした時のように、いくらでも隙を突く事ができるかもしれないという事でもあり。
それを鑑みれば、残り少ないMPの使い所も見えてくる。
彼女が持つ迷宮宝具、フラガラッハは仮にもAランク。
自己修復能力の高さも折り紙付きではあるものの、そもそもの強度も並の武器や防具と比較すれば遥かに優れており。
MPを使わず、ただの投擲武器として利用したとしても能力の1つである飛去来器を活かせば〝継ぎ接ぎへの攻撃〟や〝視線の誘導〟もできなくはない筈──……理論上はだが。
フラガラッハでは足りない分の視線誘導に、フラガラッハで足りているなら攻撃手段に、というのがMPの使い所。
そうと解れば、やる事は決まっている──。
「【黄金術:武装】! からの──【忍法術:同形】!」
『『『RULL……ッ?』』』
「今回ぐらい言う事聞いてよ! 失敗=死なんだから!!」
『『『……』』』
フラガラッハの複製と、同じ数の分身の顕現。
ただでさえ自意識を持つ首が3つもあり、知能や性格に至るまで何もかもがバラバラである以上、能力さえ見せなければ通常の武器と迷宮宝具の区別などつく筈もなく。
もし仮に区別されてしまったとしても、その情報を共有するには時間がかかるだろうし、すぐに複製し直せばいい。
もちろんMPに限りはあるが、充分に猶予はある筈だ。
しかし、それなら視線の誘導などというまどろっこしい手を打たずとも、【忍法術:隠形】や各種魔術で姿を消して接近し、少しずつでも継ぎ接ぎを剥がしていく方が確実さも安全さも遥かに優れているのではと思うかもしれないが。
相手は仮にも犬を派生元とした竜化生物、万犬竜。
嗅覚も聴覚も人間はもちろん普通の犬を遥かに凌駕している以上、シェルトの未熟な技能や魔術では音も匂いも何もかも消し切れず、まず間違いなく一瞬で勝負が決してしまうと他でもない彼女自身が誰より自覚していた為。
少なくとも今は、これが最適解だとシェルトは確信する。
「……」
……ユニもそう思っているかどうかは、定かでないが。