狩人講習:7日目・vs人造合成種 (肆)
そうと決まったからには、取れる選択肢も限定される。
このような馬鹿げた威力の光線、シェルトでなくとも大抵の狩人ならば迎撃や防御など考慮するにも値せず、〝無事に撤退する方法〟しか検討できなくなる者も多いだろう。
……本来であれば、シェルトもそちら側ではあるのだが。
(シェルト様の前で、これ以上の無様は晒せない……ッ!)
これは狩人講習の一環であり、そして何より彼女が憧れて止まない【最強の最弱職】が見ている以上──シェルトからは知覚できていない為、本当に見ているかどうか確証を持てていないが──撤退など許される筈がない事はまず明白。
その1、【武人術:回避】──不可能。
一時的にSPDとLUKを上昇、結果的に回避能力を高める技能であり、地に足を着けていなければ使えないというわけでもない為、ユニであれば有用な選択肢だっただろう。
しかし、シェルトの場合は転職士特有のデメリットによって素の能力値はもちろん上昇値すらも半減されてしまう関係上、回避の成功確率も大して上昇しない為、却下した。
その2、【通商術:転送】──不可能。
入口と出口、それぞれ指定した座標の空間に2つの扉を創り出して転移する技能であり、ユニであれば超人的な〝空間認識能力〟で以て即座に2ヶ所の座標を把握し、この瞬間にも人造合成種の死角へ転移、戦闘へ移行できた筈なのだが。
シェルトに同じ芸当が可能とも思えぬ以上、座標指定に失敗して壁や床の中に転移するという自殺にも等しい状態に陥る可能性を孕んだ手段を選ぶほど愚かではなかったようだ。
その3、【杖操術:吸魔】──不可能。
対象が非生物であっても杖の先を触れさせさえすれば問題なくMPを吸収でき、ユニであれば迷宮宝具であってもなくても一切の支障なく3つ首から放たれた息吹が秘めたMPの全てを完全に吸収してしまうだろう事に疑いようはない。
ではシェルトならどうかと問われれば、そもそも彼女は一瞬でも息吹との衝突に耐え得る強度の【杖】など持っておらず、もし仮に持っていたとしてもシェルトのMP総量の少なさも相まって吸収し切る前に杖も肉体も壊れてしまう為、上述した2つの選択肢と比較しても更に論外だと言えよう。
(ッ、どうして私はこんなにも……ッ!)
その他、位階を問わぬ魔術まで含めた可能な思いつく限りの対処法の取捨選択を瞬時に行う度に気が滅入るシェルト。
ユニであれば、どれか1つを講じるだけでいいのに、どれを選んでも駄目な自分を恥じ、情けなく思わざるを得ない。
……が、自己嫌悪に陥っている間にも息吹は飛来し続け。
もはや一刻の猶予もない距離にまで迫って来ている。
ゆえにこそ、シェルトはすでに決意していた──。
(もう、〝これ〟に縋るしかない……ッ!!)
たった1つの、〝躱せるかもしれない〟手段の行使を。