狩人講習:7日目・vs人造合成種 (参)
これでも学園での成績は実技、学力ともに上位の方だったシェルトは、3年間の濃密な学業生活の中で迷宮を護る者が放つ様々な性質の息吹を目にし、その身に受けてきた。
鋼鉄をも融解させる超高温の極炎。
全てを流し押し潰す超高圧の激流。
音を置き去りにする超高速の轟雷。
永遠の眠りへと誘う超低温の豪雪。
などなど、技能や魔術でギリギリ模倣が可能なものから。
聞くだけでMPを使えなくさせる咆哮。
嗅ぐだけで強制的に魅了状態となる活性物質。
肉眼では見えないのに直撃すると石化する突風。
残りのHPを問わず触れるだけで即死する唾液。
などなど、明らかに人間の身では再現不可能なものまで。
それこそ、ユニの手札に相当するほど枚挙に暇がない。
もちろん目の当たりにしたそれら全てをシェルトが単独で対処に当たったわけもなく、ハーパーたちや他の学生との共闘の末、傷だらけになりながらも何とか対処できた場合が殆どであり、シェルト独りで対処できた事はごく稀なのだが。
その場に居合わせた事で対処法そのものは理解、及び修得できており、それを完璧に実行できるとまでは言えないものの、余力を残しての防御や回避を選択できる程度ではあり。
もしも上述したいくつかと同じ、もしくは似た性質を持っているのなら、あの人造合成種との戦いに余裕を持って臨む事もできると──……シェルトは、そう踏んでいたのだ。
……そう、踏んでいたのに。
「嘘でしょ!? そんな偶然……ッ!!」
3つの首から放たれたのは、全く同じ性質の──。
(そこらの竜化生物と同じ、ただの息吹じゃないの……!!)
──〝単なる魔力の塊〟だった。
まさに、地上個体や迷宮を彷徨う者が放つものと同じ。
ただし、威力・規模・密度・速度──ありとあらゆる要素において地上個体や彷徨う者のそれを遥かに凌駕しており。
単純な破壊力だけで言えば、クロマの【銀白獄旋風】やアズールの【鎌操術:血刃】と同等かそれ以上と断定できる。
そんな馬鹿げた魔力の塊が──……3つ。
どれか1つでさえシェルトのか細く小さな手には余るというのに、3つの強大な魔力の塊は標的へ近づいていくにつれ1つの超極大な魔力の光線となり、ただでさえ少なかったシェルトの選択肢は殊更に狭まってしまった。
……しかし、しかしだ。
選択肢が狭まったという事は、それに全身全霊をかけるしかなく、その1つか2つほどの選択肢以外に目移りする必要がなくなったという事でもあり。
「回避1択……ッ!!」
そう断ずるまで、1秒もかからなかった。