狩人講習:7日目・vs人造合成種(弐)
……見極めなければ、とシェルトは張り切っているが。
何故そうまでして見極めに徹せねばならぬのか。
もしもユニがシェルトの立場なら、とっくに対空攻撃への対処も終えて危なげなく着地し、戦い始めているだろうに。
……まぁ、そもそもユニならば最初に邂逅した時点で戦いを終わらせていたのだろうが──……それはそれとして。
臆しているのでは? とさえ疑ってしまうほどの慎重さで以て、あくまでも〝後の先〟で対処しようとしている理由。
それは先の戦いにて、あの人造合成種の息吹を引き出せなかったせいで、〝性質〟を把握できていないからである。
前提として、迷宮を護る者の息吹は迷宮を彷徨う者や地上個体が放つそれのような単なる魔力の塊ではなく、威力や規模、密度や速度が優れている事以上に何らかの特殊な性質を持っている事が狩人たちの間では周知の事実となっており。
数日前、ユニや他2名が遭遇した迷宮を護る者が吐き出していた〝白銀の剣〟のように、もはや息吹とは呼ぶには相応しくなさそうなものまで当然の如く放ってくる関係上、通常の迷宮を護る者と戦う竜狩人たちも、まず息吹の性質を見極めるところから全てを始めるのが不文律となっている。
ましてや、あの人造合成種は──3つ首。
3つの首全てが同じ性質の息吹を吐くにしても、3つの首全てが異なる性質の息吹を吐くにしても、シェルトにとって未曾有の脅威である事に変わりはなく、どちらであるにせよ対処できなければ死ぬという事にも変わりはない。
避けるしかないのであれば回避を、防ぎ切れるのであれば防御を、あわよくば息吹を打ち破り痛撃を与える迎撃を。
最良の選択をし、戦いの舞台に立たねばならないのだ。
……それでも欲を言えば、やはり望ましい選択肢はある。
息吹の性質については、後者の方が良いらしい。
前者の方が考える事も少なくて良いのではと思うかもしれないが、3つの首が同時に息吹を吐き出してきた場合、3種の小さな力の塊と1種の大きな力の塊を比較すると、ユニほどではないとはいえ手札が多めのシェルトにとっては前者の方が対処しやすいと考えているがゆえの希望であるようだ。
そして、シェルトが取るべき対処法については3つ目が良いらしいが、こちらは〝迎撃の成功〟がそのまま〝切り札の恒常的な無力化の成功〟に繋がる為、まだ理解はできる。
抱く2つの希望が通れば、まだ何とかなる筈。
少なくとも、シェルトはそう信じていた。
……しかし、現実とは往々にして非情なもの。
シェルトが転職士に向いていなかったのと同じように。
『『『GROOWL……ッ、BOWOOOOッ!!』』』
「……ッ!!」
斯くして眼下の人造合成種が3つの首から放った息吹は。
(前者……!! 迎撃も防御もできない威力……!!)
抱いた全ての希望をへし折るに足る、3つ全てが同じ性質を持ち、迎撃はおろか防御さえ許さぬ威力を誇っていた。