狩人講習:7日目・vs人造合成種 (壱)
時は遡り、ハーパーたちが黒の天山との戦いを終える前。
人造合成種の足踏みが引き起こした崩落に──ユニが引き起こしたと言った方が正しかろうが──巻き込まれ、最奥である筈の空間から更に下へと落下してしまったシェルトは。
「──……ぁああああああああああああ……!!」
……あろう事か、まだ落ち続けていた。
落下時から、そろそろ3分が経過しようかというのに。
(何よ、何なのよ! どこまで落ちれば……ッ!!)
そろそろ着地可能な地面が見えてくる筈だと希望を抱いて下を見る度、光も届かぬほどの深淵がどこまでも続く絶望的な光景しか映らず、そんな現実を否定するかのように目を逸らしても事態が好転する筈もないのだが。
たった1点、彼女にも救いがあった。
(迷宮を護る者が先に落ちたのは唯一の救いだけど……ッ)
そう、ただ単にシェルトより先に崩落に巻き込まれたからか、それとも増殖変異種を模したがゆえの破滅的な自重からか、シェルトの自由落下を遥かに凌駕する速度で人造合成種が一足先に奈落へと姿を消してしまった為、少なくとも落下中の被弾だけは避ける事ができていたのだ。
また、無翼種であった事も少女にとっての幸運だったと言えるだろうが、あの巨躯と超重量では仮に翼を移植されていたところで飛行できるかどうか不明瞭な為、上述した〝落下順〟ほど重要視する必要があるかは微妙なところである。
……閑話休題。
「──……ッ!! アレ、って……!!」
それからまた2分近く、合計で5分ほど落ち続けた少女の視界に、ようやく待ちに待った〝希望の光〟が見えてきた。
落下地点、もとい着地点となる地面の存在が。
しかし、そうなると新たに2つの問題が発生する。
1つは単純に、どうやって着地するか。
彼女は仮にも転職士。
MP消費は通常の倍、威力と効力は半減という二重苦を背負ってはいるが、それでもユニと同様に手札は潤沢な筈。
とはいえ先の人造合成種との前哨戦での消耗が軽視できるものでもなく、これから嫌でも起きるだろう戦いの為にMPを温存せねばならぬ以上、取れる手段は意外にも両手で数えられる程度しかないというのが1つ目の問題であった。
では、もう1つの問題とは──?
『『『RUUUBOWOOOOOOOO……ッ!!』』』
「やっぱり……!!」
あれほどの巨躯と自重を誇っていても、きっと無事に着地しているだろう人造合成種が、〝煩わしさ〟という一点で落下中のシェルトを着地前に潰そうとしてきた場合の対処法。
もちろん、こちらについての解決手段もなくはない。
しかしながら、1つ目の問題である〝安全な着地方法〟と2つ目の問題である〝人造合成種による対空攻撃への対処方法〟を同時に満たす手段となると、もはや数えるのに両手も必要ないほどに限られてしまうのも事実であり。
(とにかくまずは見極めなきゃ! 最良の選択をする為にも!)
1つ目よりも2つ目を優先させねばならぬ以上、後出しになってしまうとしても見極めに徹し、『戦いにさえならない』などという不甲斐ない末路を辿らぬようにと集中し始める。
……そんなシェルトの少し上方では、人造合成種とシェルトが完全に落下し始めてから追随したユニが、ほんの少しの動揺も見られぬ無表情と姿勢で以て落下し続けていたものの。
「……」
どうやら救けに入るつもりは微塵もないようだ。
とはいえ、それも当然と言えば当然だろう。
突きつけられた2つの問題を、どのようにして解決してのけるのかという事もまた狩人講習の一環なのだから──。