狩人講習:7日目・謎の3人組 (肆)
シェルトを欠いた黄金の橋と黒の天山の3対3の戦い。
ただでさえ職業と名以外の情報がない得体の知れぬ同業者が相手という時点で不利を強いられているのに、この状況下で唯一のアドバンテージだった〝数的優位〟もシェルトが居ない事により一切ハンデのない戦いに身を投じねばならず。
戦闘開始直後の3人は、それはもう警戒に警戒を重ね。
攻撃や防御1つとっても、彼ら1人1人の一挙手一投足を決して見逃さぬように、そこに明確な隙を見つけたとしても念には念を入れる形で後退し、各々が得た情報を共有。
更には、こちらが逆にあからさまな隙を晒す事により〝作られた隙に踊らされる阿呆〟か、それとも〝安易な誘いには乗らない切れ者〟かの見極めすらも徹底した結果──。
3人が出した結論は、奇しくも同じものであった。
(((──勝てる)))
それは、揺るぎない〝勝利の確信〟。
人数は同じでも、2つのパーティーにおける総合的な戦力には確かな優劣があるという事を3人全員が悟っていた。
ただし、勘違いしてはならないのは彼らが決して弱卒などではなく、そこらの中堅より遥かに優秀であるという事。
おそらく、最低でもAランク下位相当なのは間違いない。
言うまでもなく、3人全員がだ。
しかし3人は知らぬ事だが、黒の天山は──Cランク。
ランクが上がれば上がるほど自国のみならず他国からの指名依頼も増えてしまう為、昇格の条件を満たさぬように敢えて消極的な活動しか取り組んで来なかったのだという。
それも全ては、ユニを始めとした虹の橋を追いかける為。
己らの欲望を満たす為でありながら、その実ユニたちの為にもなっている──……という体の慇懃無礼な自分勝手。
どこまでもどこまでも、それこそ偏執狂のように──。
「それもこれも全て!! あの方々の為だったのに!! どうして僕たちは受け入れられない!? どうして君たちは受け入れられる!? 性別、年齢、身分、或いはその全てか!? ズルいじゃないか君たちばかり!! 差し出せ、全てを!!」
「知らねぇんだよ!! アンタらの事情なんざ!!」
だからこそ、ユニたちには受け入れられないのだという事実を絶対に受け入れられないらしく無理難題を喚くダルの叫びに対抗するように、もはや敬語らしい敬語もなくなってしまうほどに苛立っていたハクアが怒号を放ちながら特攻していく一方。
(……このまま時間をかければ順当に勝利できる……けれど)
様々な観点からの観察の結果、何が起きても自分たちの勝率が9割を切る事はなく、総合的な力量で下回っている相手の消耗の方が早い以上、時を費やせば10割にも届き得るとハーパーは確信していたが、それと同時にとある疑念を抱いていた。
本当に、それでいいのだろうか──と。
ユニが自分たちに求めているものは、そんな安定に安定を重ねた当然の如き勝利ではなく、ハーパーたち3人全員が1つ上の段階に進むような勝利なのではないか──と。
そして、ハーパーは悟ってもいた。
鍵を握るのは、〝覚醒〟であると。
……とはいえ、ハーパー自身は技能を持たない精霊術師。
もちろん精霊術師には精霊術師の覚醒型技能に相当する能力も存在し、ハーパーはすでにそれを会得しているのだが。
やはり重要なのは、ハクアとシェイの覚醒。
そして、ハーパーは知ってもいた。
その内の1人はすでに、覚醒済みである事を。
『──ハクア、シェイ。 もう充分に見極められましたし、そろそろ終わりにしますわよ。 私が拘束、シェイが錬成、ハクアが最後の一撃。 貴女たちは覚醒型技能を使いなさい』
『へッ!? いや自分は覚醒型技能なんて……!』
『ボクは、まだ練度が……』
『言い訳無用! 全ては勝利した後に! 良いですわね!?』
『『はッ、はい!』』
ゆえにこそ、ハーパーは風の精霊を通じて2人に戦いの幕の降ろし方と、すでに覚醒型技能を会得しているシェイ、そして効果こそ解っていても未だ覚醒にまでは至っていないハクアに対して同様の指示を反論を許さぬ気概で以て出し。
誰が何と言おうと、その一撃で終わらせると宣言した。