狩人講習:7日目・謎の3人組 (参)
これまでも、ユニを始めとした虹の橋のファンを名乗る者たちが、〝ちょっかい〟と呼ぶには物騒で厄介な干渉や。
十全な活動を阻害する目的しか感じない妨害工作、食べ物と称するのも憚られるほどの髪や血液が混じった悍ましいプレゼンなど、ファンクラブによる精査がなければ虹の橋の怒りを買っていただろう行為を働かんとする者も居たは居た。
その中で最も多かったのが、今回と同じ〝偏執狂〟。
少しでも近くに居たいという心理が働いてしまったがゆえの行為なのだろうが、その行為に手を染めた者たちの存在は全てユニたちに気づかれていたし、その殆どは五体不満足となるか最悪の場合は命を落とすといった末路を辿っている。
もちろん、ユニたちが手を下した事は1度だってない。
そもそもSランクパーティーである虹の橋がクエストを受注して赴くのは、Sランクパーティーでもなければ達成はおろか生きて帰る事も辿り着く事も困難な場所が殆どであり。
過酷な〝環境〟、或いは強力な〝竜化生物〟によって。
虹の橋の与り知らぬところで死んだか殺されただけ。
しかしながら、たった今ハーパーたちを突如として襲撃するとともに虹の橋の信奉者を名乗った3人は、これまでの偏執狂とは〝悪意〟も〝覚悟〟も〝実力〟も桁違いに強く。
「……一体、どのような目的で尾けて来られたので?」
「なぁに、簡単な事さ」
これまでを知らないハーパーたちからしても異様な空気を纏う眼前の3人は、そもそも何の目的があってユニを尾行したのか、そして自分たちを襲撃したのかという抱いて当然の疑問を投げかけられたダルは、にこりと笑みを作りつつ。
「これまで僕たち黒の天山は何度も何度も何度も──もう数えるのも馬鹿らしくなるほどに『狩人講習の嚮導役を引き受けてほしい』にと虹の橋へ打診してきたんだ。 けれど、あの方たちは誰1人として引き受けてはくださらなかった」
「まさか、その腹いせに自分らを……? そんな事で──」
まるで舞台上の演者であるかのように大仰な身振り手振りと長ったらしい自分語りで以て、ぐちぐちと嫌味を綴る。
……一言で言うと、ハクアの呟き通り『自分たちの希望が通らなかったのに、どうしてお前たちは』という歪な僻み。
黄金の橋からすれば、そんな事の為に狩人人生を棒に振りかねぬ行為に手を染めるなど理解できなくて当然なのだが。
しかし、彼らには彼らなりの言い分があるようで。
「そんな事……? はッ、お前たちからすればその程度の事なのだろうな。 何せたった1度の打診で受諾されたのだから」
「ッ、そんなの、マジで八つ当たりじゃないっすか……!」
竜狩人として活動している年数からして違うのだから比較するのもおかしいが、1回で引き受けてもらえた事がどうしようもなく気に食わないという如何にもな八つ当たりと。
「おまけに、いくつものAランク狩人からの立候補を蹴ったそうじゃないですか。 良い御身分ですね、貴族というのは」
「べ、別にボクたちの身分は関係あ──」
虹の橋へ依頼する前に複数の高ランク狩人、或いはパーティーから『ぜひ嚮導役を担当させてほしい』という下心ばかりでもない立候補があったものの、その全てを断固として拒否するなどという横柄で傲慢なやり口が癇に障ったのだと吐き捨ててきた3人に対し。
まだまだ狩人としても令嬢としても未熟であれど、それでも一応〝貴族の矜持〟は持っているらしく、何とも控えめに反論しようとしたシェイの発言を遮ったのは。
「その通り、これはもう身分だの年齢だのの問題じゃないんだ。 ハクアと言ったね? 君が言ったように、ただの──」
「腹いせで、八つ当たりさ。 ま、大目に見てほしいな」
「ッ、来ますわよ! 備えて!」
何とも身勝手な、ダルによる〝戦闘開始〟の合図だった。




