離脱宣告
ここから本編の始まりです!
あらゆる生物が〝竜化〟し得る世界──〝ドラグリア〟。
かつて、この世界には4つの大陸が存在していたらしいが、ずっと昔に起きた世界全土を揺るがすほどの天変地異によって1つの大きな大陸になったらしい。
遥か上空から眺めると、まるで今にも動き出しそうな巨竜の形に見える、たった1つの大きな大陸。
その名は、〝ジークガイア〟。
かつて大陸が4つだった頃には存在しなかった筈の世界で最初に〝竜化生物〟を発見した1人の男にあやかって付けられた名であるという。
そして、ここは〝ドラグハート〟。
ジークガイアの中心、巨竜の心臓部に位置するその国は、この大陸において技術力も軍事力も、その他全てを総合した国力でも他国を圧倒する大国である。
そんな大国には似つかわしくない、とある小規模ながらも人の往来は多いという少々変わった町で今──。
「──……パーティーを、抜けてほしい?」
「えぇ、そうよ。 〝ユニ〟」
目の前に並べられた料理にも手を付けぬまま、赤髪ツインテールの美少女が、ユニと呼ばれた中性的な顔立ちの美人に向かって、パーティーとやらからの離脱を提案、もとい強制する一幕が繰り広げられんとしていた。
ここは、〝竜狩人協会〟。
この世界の至るところに存在し、まるで己こそが頂点捕食者だと言わんばかりに我が物顔で跋扈する竜化生物絡みの厄介事を、〝クエスト〟という形で解決する〝竜狩人〟の集会所。
24時間営業という事もあり、いつもは昼夜問わずガヤガヤと騒がしい協会併設の酒場も、この時ばかりは彼女たちの内輪揉めを酒の肴にヒソヒソと成り行きを見守っていた。
ちなみ今は夕刻である。
「理由を聞いても? 〝ハヤテ〟」
そんな中、ユニは目の前で半ば自分の方へと身を乗り出してきている赤髪ツインテの美少女、名をハヤテというらしい鎖帷子が特徴的な軽装の狩人に対し、どうして自分がパーティーを抜けねばならぬのかと問う。
流石に正当な理由もなしに離脱を強制するのは、お互いにとっても不味いだろうと判断したがゆえの質問だったが。
「……ユニ。 あたしたちは、パーティーよね?」
「そうだね」
「……同じパーティー、〝虹の橋〟の仲間で……同じ孤児院で出逢った、たった4人の幼馴染でもあるわよね?」
「そうだね」
何故かハヤテが唐突に自分たちの──同じ卓を囲む4人の狩人の関係性についてを改めて復習させるような形で質問に質問で返してきた為、ユニは全く同じ4文字の言葉でそれらを肯定する。
実際、何も間違ってはいない。
ユニもハヤテも他の2人も、この〝トータス〟という街の孤児院で育っているし、それをきっかけにパーティーを組んだ仲間というのも間違ってはいない。
「それが何?」
「〜〜っ!」
だからこそ、そんな当たり前の事実を今さら確認させて何のつもりかという、きょとんとした表情を浮かべるユニに、ハヤテはいよいよ我慢の限界だとばかりに立ち上がり。
「あんた、単独行動が多すぎなのよ! これじゃ何の為のパーティーか解らないじゃない!」
「単独行動……?」
元はと言えば、せっかく4人でパーティーを組んでいるのに、ユニ1人での活動があまりに多いのが原因ではないかと心からの不満を叫んだものの、当のユニは首をかしげるだけ。
確かに、ユニは1人で行動する事も多い。
それは、ユニが目指すものと他3人が目指すものに決定的な乖離があるがゆえの事なのだが。
「ねぇハヤテ。 君の言う単独行動は、パーティーとして1日の活動を終えた後に私が1人で依頼を受けたり鍛錬してる事で合ってる?」
「そ、そうよ」
「それのどこに問題があるのかな」
だとしてもユニは日中、或いは夜中にパーティーとしての活動を十全に終え、そこから一旦解散した後、1人で竜狩人としての活動を続けているだけ。
つまり〝虹の橋のユニ〟としても、〝竜狩人のユニ〟としても、しっかり役目を果たしていると言える筈なのだ。
そんなユニの言い分に共感してか、『確かにそれなら問題ねぇよな』、『いつまで子供のつもりなのかしらね』と外様の狩人たちがハヤテを否定、或いは非難する中。
「うっさい! 外野は黙ってて! あたしはただ、せっかくパーティー組んでんだから足並みくらい揃えろっつってるだけなのよ!」
とにかく、ハヤテとしてはユニが解散後も単独行動を続ける事による弊害、『ユニ1人だけ〝Lv〟が上がる』という事実に焦点を当て、せめて自分たちと足並みを揃える努力をしろと主張する。
この世界では、あらゆる生物にLvという存在の格が生まれついて存在し、それは同じくLvを持つ他の生物を殺めれば殺めるほど高まっていき、それに伴い狩人たちがそれぞれ持つ〝職業〟や〝武装〟という後述する固有の能力も強くなっていくのだ。
そしてLvの上昇において最も効率が良いのが、竜化生物の討伐なのである。
……まぁ人間が相手でも良いのだが、そうすると法律に反してしまう事になるので大抵のまともな人間はそんな蛮行に走りはしない。
また、パーティーを組むうえでメンバーのLvを揃えるというのも大切だったりする。
何しろ実際に竜化生物を討伐した時、パーティーメンバー全員に同じだけのLvを上昇させる為の存在力──〝EXP《経験値》〟が入るわけではなく、メンバーの中で最もLvが高い者ほど多くのEXPが入ってしまうのだ。
それゆえ、ハヤテの主張も正しいと言えば正しいのだが。
「足並み、ね……」
「な、何よ」
「ハヤテ、君の竜狩人としての〝ランク〟は?」
「……? Aランクよ、知ってんでしょ」
それを溜息で制したユニは立て続けに、ハヤテの竜狩人としての現在の〝ランク〟、つまり協会が狩人1人1人を実力や経験、実績から判断してF〜Sで評価される格付けを問い。
ハヤテは怪訝そうな表情で〝Aランク〟だと答える。
……さらっと言ったが、F〜Sという7段階の評価におけるAランクは上から2つ目。
世界中に数千人は存在するだろう狩人全体で見ても、およそ1割にさえ満たない超々優秀な狩人の証拠である。
これでもハヤテは有能な狩人の中の更に一握り、本来ならパーティーをリーダーとして仕切っていてもおかしくない逸材なのだ。
……が、しかし。
それでもユニの優位は揺るがない。
「そうだね。 じゃあ、私のランクは?」
「──……でしょ」
「ん?」
「っ、Sでしょ! いちいち言わせんな!」
そう、何しろユニは〝Sランク〟。
優秀な狩人の中の一握りであるAランクを更に濾過したうえで、その上澄みを掬ったという表現でもまだ不足しているかもしれないとさえ思わせる、正真正銘〝最強の称号〟を協会から、そして国から与えられた狩人を指す。
Aランクですら1割にも満たないと言ったが、Sランクの竜狩人に至っては何とこの広い世界に6人しか存在しない。
AランクとSランク、2つのランクの間にある差はたった1つなのだが。
「そう、私はSランク。 たった1つ分でも、その差は埋まりきらないほど大きい。 これでも私、可能な限り歩み寄ってるんだけどね」
ユニの言う通り、決して越えられない壁が2つのランクを阻んでいるのである。
普通の人間では決して越えられない、大きく分厚い壁が。
具体的に言うと、Aランクは小国が保有する軍隊と単独で渡り合えるほどの実力があるかもしれないと評価された猛者たちではあるが。
Sランクはあろう事か、規模を問わず一国を単独で制圧可能と協会や国が太鼓判を押した正真正銘の怪物たち。
世間的に、Sランクへ辿り着いた狩人はこんな風に表現されている。
──人間の領域を踏み外し、竜の領域へ到達した者──
と、まるで人外の化物か何かであるように。
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