狩人講習:7日目・謎の3人組 (弐)
──【霊障術:黒架】。
それは、かつてユニやトリスが鏡試合で発動した聖騎士の技能、【護聖術:白架】と対になる死霊術師の攻撃系技能。
闇属性の邪なる十字架を顕現、聖なる十字架の〝浄化〟とは対照的に侵し蝕む〝侵蝕〟で以て敵を斬り裂く黒の一撃。
それを発動した眼前の死霊術師のLvが68、適性がSという事も相まって、その規模も威力も並ではなかったが。
今の3人が、この程度で臆するわけもなく──。
「【黄金術:武装】──〝ほぼ雷槌〟! ハクア、これを!」
「どもっす! からのォ! 【槌操術:噴火】ッ!!」
ユニが預かっていた【狂鬼の戦乙女】の迷宮宝具、ミョルニルを解析する事で100%とまではいかずとも単独で錬成したにしては上等な複製品を完成させていたシェイ。
それを受け取ったハクアもまた、クラディスとの戦闘から一皮も二皮も剥けた影響か【槌】の扱いも【斧】と同等かそれ以上に洗練されており、【霊障術:黒架】の衝突寸前に床を叩いて噴出させた火属性の魔力は、ほぼ雷槌の雷霆と混ざり合って火山雷の如く立ち昇り。
流石にクラディスの一撃には及ばぬものの、そこらのAランカーさえ屠りかねない漆黒の十字架を相殺してみせた。
……いや、むしろここまでしなければ相殺など不可能だったと確信させるほどの【霊障術:黒架】を事もなげに放ってみせた死霊術師も大概なのだろうが、それはさておき。
「お見事。 あの方が嚮導役を引き受けただけの事はある」
「ッ、あの方って──」
心にもない拍手と送りつつ誰を指しているのか一目瞭然の3人称を用いた死霊術師からの称賛に反応を示して確認を取ろうとしたハーパーの疑問を遮ったのも死霊術師その人。
「おっと、その前に自己紹介でもしようか。 さっきは不躾にも手が滑ってしまったからさ。 いやぁ、すまないね」
「抜け抜けと……ッ」
手が滑った──と、今の一瞬の攻防を他人事のように語る優男の薄気味悪い笑みとは対照的な、それこそ唾でも吐きかけそうなほどの不気味さを感じ取っていたハーパーの悪態をよそに。
「僕は〝ダル〟。 死霊術師で、〝黒の天山〟のリーダーさ」
「……〝ヘイム〟。 錬金術師だ」
「竜操士の〝イムダ〟です。 短い間ですが、よろしく」
「……同業者だったんすね、アンタら」
こちらとしては聞いてもいない、3人の男たちの名と職業を否が応でも把握させられただけでなく、まだ竜か首かは解らないが少なくとも自分たちと同じ〝狩人〟ではあるのだと。
……この6日間で出会ったあの2人のように方向性は違えど確かな〝芯〟を持つ者も居れば、この3人のように芯も性根も何もかも曲がり切った者も居るのだと。
ハクアたちは、著しく失望していた。
こんな輩をも採用する、狩人協会という組織そのものに。
「そう、君たちと同じ竜狩人で──」
そんな中、ダルと名乗った死霊術師は名乗りを終えたからか独り満足げに微笑みつつ、ハクアたち3人を──……ではなく3人の背後にある巨大な穴を指差してから一呼吸置き。
「──君たちと同じ、虹の橋に魅入られた信奉者だよ」
「「「ッ!?」」」
己らがファンガならぬ〝ファンボ〟だと明かしてみせた。