狩人講習:7日目・謎の3人組 (壱)
戦場を2つに分断する事自体は、そう難しい事ではない。
星の数ほどの〝手札〟が、ユニにはあるからだ。
しかし、あらかじめ全てを聞かされているハーパーたち3人を除くとしても、シェルトや後方で様子を窺っている素性不明の3人組に目論見がバレては計画が破綻してしまう為。
数ある手札の中から、〝ユニの仕業だとバレない方法〟で分断を実行しなければならないという制約が付き纏う。
……それが何?
戦場にそぐわぬ微笑みから、そんな呟きが聞こえてきそうだと思ったのも束の間、予備動作もなく技能を発動する。
「──【竜王術:調伏】」
『『『OWッ!? LE、EEE……ッ!?』
「な、何……?」
「「「……!」」」
本来、余程のLv差でもなければ一定以上のダメージを与えない事には通用しない筈の竜操士の技能を発動した瞬間、触れられてすらいない人造合成種が攻撃の手を緩めるどころか短絡でも起こしたかのようにガクガクと震え始め。
討伐対象の急変にシェルトが唖然とし、ハーパーたちが全てを悟って『次に何が起きてもいいように』と備える中。
「からの──〝お手〟」
『『『BO……ッ、GWOOOL!!』』』
「「「「ッ!?」」」」
ユニがそう呟いた途端、僅かな抵抗の意思を感じさせる奇妙な動きを見せたかと思えば、すぐさま自意識を奪われるとともに無理やり右の前脚を上げさせられ、それを床へと勢い良く振り下ろすやいなや、自然災害も斯くやとばかりの揺れを伴う衝撃が迷宮全体を襲い。
地鳴りだけならまだしも、その衝撃は天井や壁はもちろんシェルトたちや人造合成種自身が立つ足場までも粉砕する。
「〝解除〟」
『……ッ!? YEE!? GREEEEWL……ッ!!』
崩落に巻き込まれたのは、人造合成種と。
「ッ、あ……?」
「!? お嬢!」
他3人と違い事態の予測ができていなかったシェルトと。
「私が行くから大丈夫、君たちは君たちで──頼んだよ」
「「「……ッ、はい!!」」」
そんな1人と1匹を追いかける形で姿を現したユニ。
最高で最強で憧れの狩人から、〝安堵〟と〝重圧〟という相反すると言っても過言ではない2つの感情の発露を強いられた3人が、一旦リーダーの安否をユニに一任する形で思考から除外し、これから嫌でも接敵するであろう何者かとの戦闘に備えていた時。
「あのような衝動的な攻撃を命じたつもりはないが……」
「魔力回路か神経回路、どっちかミスったんじゃない?」
「繋ぎ方を? まぁ、なくはないかもですけど……」
「「「!!」」」
未だ晴れない土煙の向こうから、まるで切迫している様子のない──それこそユニのように和やかな声音で会話する3つの男声が接近している事に気づいた3人の前に現れたのは。
どこからどう見ても好青年としか思えない金髪碧眼の男。
何かを隠しているのか、やたら着膨れした青髪隻眼の男。
猫背なせいで余計に幼く見える、コート姿の小柄な男。
いずれも何らかの武具を装備している以上、今この瞬間にも戦闘が始まっても何らおかしくない為、更なる緊迫感が3人を襲う中、黙っていても仕方ないと判断したハーパーが意を決して口を開いたまではいいものの。
「……貴方たちが、あの迷宮を護る者を造ったのですね?」
「あぁ、そうさ。 それで、さっそくで悪いんだけど──」
その質疑応答は、たった数秒で遮られる事になる。
「──死んでくれるかい?」
「「「ッ!?」」」
死の宣告を伴う、巨大な漆黒の十字架の襲来によって。