狩人講習:7日目・vs突然変異種擬き (結)
突然変異種は、全部で7つしか存在しない──。
──……というのは、ただ単に現時点で7種しか確認されていないがゆえに人間側が勝手にそう見做しているだけ。
その為、8種目のとなる新たな突然変異種が発見される事自体は異例でこそあれ、可能性としてはゼロではない。
では、たった今この瞬間も黄金の橋と戦いを繰り広げている──戦いになっているかどうかも微妙なところだが──異形の迷宮を護る者は、8種目の突然変異種なのか? という疑問を投げかけられたとしたらユニはこう突きつけるだろう。
──〝否〟、と。
そもそもの前提として人間の手で造られた竜化生物が突然変異であるわけがないし、もっと言えばユニは〝仮定〟ではなく識っているのだ。
突然変異種は、この世界に7種しか存在しない──と。
ゆえに、【通商術:鑑定】を発動させたユニの瞳に映る新しい分類は、最奥の間の扉付近で迷宮を護る者と黄金の橋との戦いを覗き込む下世話な連中が造り出した〝作品〟に、Sランクの商人でもあるユニの技能が勝手に決めた〝仮称〟。
──分類:〝人造合成種〟。
錬金術師の技能、【黄金術:生命】で創造した人造竜化生物と限りなく似通った──というより、おそらく同技能も一因となっている──この強靭な異形の存在を人間の身でありながら創造してみせた者たちに興味がないわけではないが。
「さて、そろそろかな」
『? 何がでしょうか』
「〝分断〟だよ。 君にも手伝ってもらうからね」
『構いませんが……どのように?』
それはそれとして当初の予定以上に優先すべきものはないという事もまた事実であり、シェルトたちの戦いに関しても4人で挑んでいる限りこれ以上の進展はないと確信していた為、いよいよユニはハーパーたち3人にあらかじめ告げていた分断作戦への移行を宣言する。
一方、遥か後方からこちらを覗いている連中の存在にはとうに気づいていても、それが一体どう分断作戦に繋がるのかまでは未だ聞いていなかったフュリエルからの問いに対し。
「私とシェルト、君と3人。 私たちの方に人造合成種、君たちの方にあの人造合成種を造った連中を誘導するから」
『……その後、私は何かを?』
単刀直入かつ単純明快に、『戦場を2つに分かち、それぞれの戦いをユニとフュリエルで監督する』と答えたまではいいものの、〝監督〟というからには何かをした方がいいのだろうかと憂慮したフュリエルは再び疑問を投げかける。
「君は何もしなくていい、そこに居合わせられない私に代わって見守ってくれればいいから。 本当は技能か魔術でも使って私が見ててあげられたら良かったんだけど、ちょっと余裕がなさそうなんだよね。 私としても初の試みだからさ」
『では、命を落とした場合は……』
そんな指示待ち天使と化した従者からの問いにも嫌な顔1つせず答えるユニの声音に変わりはなかったが、何かを示唆する意味深な内容が含まれていそうな後半部分だけは僅かに苦笑いを浮かべながらの答弁だったと察しつつ。
それはさておき、もしもの時の蘇生は本当にしなくていいのかという事だけは天使として聞いておかないわけにもいかなかったようだが、そちらについては特に思うところもなかったらしいユニは再び表情を元に戻した上で。
『そんな心配は要らないよ。 あの3人は最初から、そこらの中堅程度に苦戦するような雑魚じゃない。 〝覚醒〟を遂げていようがいまいがね。 ま、事後報告だけはしっかり頼むよ」
『……承りました』
すでに覚醒型技能を身につけている者と、この戦いの中で身につける者の存在が確実な勝利を導くだろう──と、まぁ意訳すればこういう感じの答えで質疑応答を締め括り、これ以上の答弁は無意味と察したフュリエルが頭を下げるのと同時に、ユニが魔術を起動して届けてきた指示により、ハーパーたち3人は全てを悟る事となる。
『ハクア、シェイ、ハーパー。 時間切れだ──始めるよ』
「「「ッ!!」」」
ここからが、〝本番〟の幕開けであるのだと──。