狩人講習:7日目・迷宮攻略 (転)
シェルトとハーパー、地上にて2人で相手取った個体より1匹残らず高Lvな万犬竜の群れとの急な戦闘に臨む4人。
結論から言うと、討伐自体には成功したのだが──。
「──ふぅ……結構、時間かかっちゃったわね」
「数が数でしたもの、致し方ありませんわ」
「ひとまず最初の襲撃は乗り越えたっすけど、これからどうします? 一旦ここらで休息を挟むか、それとも先に進むか」
「撤退、再補給という手も……?」
「それは流石に慎重すぎる気もするっすけどね」
肉体や装備の損傷こそ軽微ではあるものの、討伐完了までの時間の長さに比例する形で各々の備蓄や、何よりMPを随分と消耗してしまっている事は4人の誰も否定できず、〝確実な攻略〟を念頭に置くのなら突入したばかりとはいえ撤退も視野にと提案してきた仲間たちを前に。
「……進みましょう。 何時間も、何日もかければ安全に攻略できるのは間違いないでしょうけど、ユニ様に迷惑だもの」
「「「……はい」」」
今は姿も見えないが、まず間違いなく嚮導役として同伴している筈のユニが居るかもしれない方へと視線を向けつつ、あくまでも『ユニに必要以上の時間を割かせるわけには』と真剣な表情で主張するリーダーに対し、3人の表情や声音から彼女への尊敬の念が薄れていくのを見て。
『何も変わっていないし、何も解っておりませんねアレは』
「そうだね、やっぱり私から言わなきゃ駄目かな」
フュリエルは元より、ユニまでもが失望していた。
これまでの6日間、直接シェルトには言わずとも解ってもらえるようにと仕向けてきた事が無駄だったと知ったから。
「……えぇ、えぇ。 なるほど、ありがとう」
「ハーパー、精霊たちは何と?」
「快く最奥までの道を教えてくれましたわ。 少々経路は複雑ですが、2時間ほどで辿り着く事も不可能ではないかと」
「よし、それなら──」
その後、先ほどの戦闘で失った備蓄や携行品の中で錬成可能な物をシェイとシェルトが協力して再補給する一方、戦いでも充分すぎるほど力を貸してくれていた精霊たちから、ハーパーが〝最奥への最短ルート〟を教わったと聞いた事でシェルトが今後の動向を固めるべく全員の注目を集めようとした時。
「……ただ、1つ気になる事が……」
「また? 今度はどうしたの?」
「ここの迷宮を護る者、精霊たちの話によると──」
シェルトも気がかりだった〝石像〟とは別に、精霊たちの話で気になる事があったらしいハーパーに対して怪訝な表情を浮かべつつも、リーダーとしては放っておくわけにもいかず問うてみたところ、どうやら気になる事とはこの迷宮の主についての何かだったようで。
「──普通じゃない、らしいんですの」
「「?」」
「どういう事っすか?」
「詳細までは教えてくれないんですのよ。 まるで何かを恐れてるかのように、その話となると散っていってしまう……」
「「「……」」」
普通じゃないという何とも曖昧な答えが返ってきた為、当然ながら疑問符を浮かべて問い返したはいいものの、ハーパーにしても精霊たちが話の途中でぶるぶると震えながら迷宮中へ離散してしまうせいで何一つ詳しい事は解らないのだとか。
……むしろ、そのせいで気になって仕方ないのだろう。
「途轍もなくLvが高い……? それこそ100とか……」
「息吹の性質がぶっ飛んでるって可能性もあるっすよ」
「或いは……これは考えたくもないけれど──」
シェイが言うようにLv100であったり、ハクアが言うように迷宮を護る者としても異質な息吹を吐いたりと、普通じゃない要素を並べていけばキリがないものの、おそらく彼女たちが最も危惧すべきなのは──。
「──突然変異種、だったりするのかもしれないわね」
「「「……ッ」」」
白色変異種や黒色変異種を始めとして、この世界で7種しか確認されていない異形の怪物、突然変異種である可能性。
……もし、もしも本当に突然変異種だったのなら。
ここで撤退を選択すべきなのは間違いない。
というより、選択しなければならない。
何しろ突然変異種とは並のAランク竜狩人や最後の希望はもちろんの事、世界に10人しか居ないSランク狩人でさえ苦戦を強いられる正真正銘の怪物。
ましてやそれが迷宮を護る者ともなれば、その10の中でも特に突出した力を持つ3人の狩人、黄金竜の世代でなければ討伐はおろか、まともに立ち向かう事すら不可能なほど。
「……ここからは、なるべく消耗を避けていきましょう。 ハーパーは前衛で道案内、ハクアはハーパーの護衛、シェイは常に視野を幅広く保って警戒、私は変わらず中衛で貴女たちの不足を補う。 異論がなければ、この陣形でいくわよ」
「「「……了解」」」
それを知ってか知らずか、シェルトは〝撤退〟を選択こそせずとも今後は全てにおいて〝低減〟や〝倹約〟を前提とした行動をと指示を出し、それが全て正しいとは今さら思えぬものの、さりとて他に道はないとも解っていた3人は神妙な表情で返事し、4人は最短ルートを通って更に奥へと進んでいった。
『あのように曰っておりますが、どうなのでしょうか』
「あぁ、あれは言うほど見当違いでもないよ」
『と、仰いますと?』
「この迷宮の最奥には──」
「──〝突然変異種擬き〟が待ち構えてるからね」