狩人講習:7日目・迷宮攻略 (起)
──翌日、最終日となる7日目の朝。
「「「「おはようございます……!」」」」
「おはよう、流石に気合い入ってるね」
「「「「はい!」」」」
単に最終日だからなのか、それとも今日までの6日間と違って協会前に集合するのではなく目的地となる迷宮の目の前へ現地集合だったからなのか、シェルトは言うまでもないが他3人もやる気満々といった具合で挨拶と返事を返す。
……前日の決起集会でのシェルトを除くメンバーだけで繰り広げていた話し合いの内容を思うと、3人の挨拶や返事に活気を感じるのも奇妙な気はするものの、それはさておき。
「説明するまでもないとは思うけど、7日目となる今日の課題は〝迷宮攻略〟。 襲来する迷宮を彷徨う者を蹴散らし、迷宮自身が仕掛けた罠を掻い潜り、最奥に座す迷宮を護る者を討ち果たし、〝宝〟を手に入れる。 単純だけど、これこそが竜狩人を竜狩人たらしめる最も重要なクエストの全てだよ」
「「「「……ッ」」」」
これまでの6日間と何ら変わらぬ表情と声音で以て最終日の課題を説明していくユニとは対照的に、4人の表情は一気に緊張と真剣味が入り混じって強張り、ごくりと息を呑む音さえ聞こえてきそうなほどの緊迫感が支配する。
ここまでの6日間における講習の成績がどうであれ。
迷宮攻略が駄目なら、未来はない──。
そう言っているようにしか聞こえなかったからだ。
……尤も、この世界で活動する竜狩人の全てが迷宮攻略を主な収入源としているわけではなく、全体の3割近くは新米を抜け出して中堅や熟練となってもなお比較的安全な地上にて〝日銭を稼ぐ〟──……と言うと聞こえは悪いが、そういう生き方を選んだ先達も決して少なくない。
その為、黄金の橋が竜狩人における少数派としての生き方を受容できるのであれば、もし今回の迷宮攻略の結果が芳しくないものであったとしても大した問題とはならないとも言えなくはないだろう。
とはいえその場合、彼女たちが憧れるユニを始めとした元虹の橋とは綺麗さっぱり袂を分かつ事となり、ハーパーたち3人が最後の希望に至るまでの成長をする事もなくなるという最良とは程遠い未来に帰結してしまうだろうが。
もちろん4人は、そんな未来を生きたいわけではない。
だからこその真剣味、だからこその緊迫感なのである。
「ここから先、私は一切助言をしない。 当然、君たちが危機に陥ったとしても先日のように助けに入る事もしない。 あくまで〝黄金の橋の迷宮攻略〟である事を念頭に置くように」
「「「「ッ、はい!」」」」
そんな4人の引き締まった表情の意味を知ってか知らずか更に追い討ちをかけるかのように突き放してきたユニに、いよいよ緊張が最高潮に達した黄金の橋が威勢良く返事する中。
(……助言はしない、救援にも入らない……けれど、分断はする。 それも、そのタイミングを私たちに教える事なく──)
おそらくはハクアやシェイもそうなのだろうが、ハーパーは特に先日ユニから告げられた〝講習の一環〟とやらで人為的に引き起こされるのだろう何らかの事態が気になって仕方ないようで。
「──……パー? ハーパー! どうしたの?」
「ッ、いえ、何でもございませんわ」
「そう? それじゃあ突入する前に陣形の確認を──」
リーダーであるシェルトからの再三の呼び声さえ届かないほど深く思考の海に飛び込んでいた事を自覚し、ビクッと身体を震わせながら首を横に振るハーパーに若干の違和感を抱きつつも、不備があってはならないからと陣形や連携に関する最終確認に移行する3人の話し合いを聞いてもなお。
(……正直、迷宮攻略より不安ですわ……)
もはや本来の目的が霞むくらいの不安に苛まれていた。