狩人講習:6.5日目・現状報告 (中)
「忌憚なき率直な意見で構いません、【最強の最弱職】。 彼女に──……いえ、黄金の橋に未来はあるのでしょうか?」
未来はあるのだろうか? という質問を投げかけている時点で己の中で答えを出しているも同然であり、セリオス自身もそれを自覚しているからこそ神妙な表情を湛えているのだろうが、それはそれとして問わずにはいられなかったようだ。
加えて、ユニから返ってくる答えについても半ば確信してはいたものの、ユニの口から実際に聞かない事には何も始まらないと判断したがゆえのおずおずとした問いに対し。
「ないよ。 少なくとも、今のままなら」
「やはり……」
セリオスの葛藤など何処吹く風と言わんばかりに『否』と断言された割には、彼の表情に大きな変化は見られない。
やはりという呟きからも解る通りユニから否定の意を示す言葉が返ってくる事は、ある程度予想できていたのだろう。
「……ですが【最強の最弱職】、彼女は他3人と違って道を選び直す事ができません。 頼みの綱とも言える転職が不可能となると、もはや取れる選択肢は限られてくるのでは……」
だからこそ彼は『未来はない』と断言されてもなお思考停止する事もなく、その名に〝転職〟を冠していながら全ての職業の中で唯一〝転職〟という手段が取れない転職士に就いてしまった少女を哀れみつつも彼女の前途についての思索を巡らせていたのだが。
「そうだね。 あの娘が取れる選択肢は──3つ」
「えぇ、3つ──……3つ? 2つではなく?」
そんな彼が頭に浮かべていたものよりも1つだけ多い3つの選択肢を浮かべているらしいユニに、セリオスとしては珍しい呆けた表情と声音で咄嗟に聞き返してみたところ。
「君の言う2つってのは〝解散〟と〝退職〟だろう? 私の中にはもう1つあるんだよ、誰も損しない選択肢がね」
「それは、一体……?」
「それは──」
これといって得意げな表情をするでもなく、ただそこにある事実を突きつけるかのような無感情極まりない声音でユニが口にした〝3つ目の選択肢〟は、セリオスにとっても予想だにしないものであったという──。
★☆★☆★
──……一方その頃、同時刻。
「なるほど、じゃあ明日はその迷宮に全員で挑むんすね」
「えぇ。 相手は万犬竜、平均Lv40〜50ってとこね」
「遭遇した個体に限った平均、ですけれど」
「……」
ユニ不在の決起集会を開いていた黄金の橋。
6日目となる今日の課題も無事に完遂した事を、シェルトとハーパーが残る2人に伝え終えた辺りで一段落し。
「いよいよ明日が最終日。 悔いの残らないように、ユニ様からお褒めの言葉をいただけるように頑張りましょう!」
「……えぇ」
「っす」
「はい……」
「よろしい! 期待してるわよ!」
仲間たちを鼓舞する締めの言葉としては、どうにも自分本位が過ぎているようにも聞こえたものの、3人はそれに言及する事もなく何とも力ない返事で呼応していたが、シェルトはそんな3人の機微にも気づかず満面の笑みを湛えるのみ。
「……っと。 じゃあ私、お花を摘みに行ってくるわ。 ここの支払いは私が持つから好きに頼んでていいわよ貴女たち」
「えぇ、お言葉に甘えさせていただきますわ」
その直後、飲み過ぎたからか催してしまったらしいシェルトが控えめに席を立ち、そんなつもりはなかろうものの身分の高さをアピールするかのような奢り宣言をしてからお手洗いに向かっていくリーダーを尻目に。
「──さて、2人とも。 そろそろ教えてくれますわよね?」
「「え……」」
「少なすぎる口数と、神妙な表情の理由」
「「……ッ」」
この決起集会の間、シェルトはもちろんハーパーとさえ比べものにならないほど口数が少なく──シェイは元より寡黙な方だが──それに加えて表情も沈みきっていた2人の様子にハーパーは最初から違和感を抱いており、ひけらかすつもりはなくとも3人の中では最も身分の高いハーパーからの追求に対し。
しばらく顔を見合わせた後、観念したように口を開く。
「……ここに集合する少し前、一足先にシェイと合流したんすけど。 そン時の会話で、お互い知っちゃったんすよね」
「何をですの?」
「……ユニ様が、ボクたち2人を訪ねて来られた事をです」