異常者は異常者らしく
悪い面における見本。
そうなってはいけないと教えられる人物や事例。
それが、〝反面教師〟という言葉が表すもの。
つまり、ハクアにとってのクラディスは同じ狂戦士でありながら決して同じ道を辿ってはいけない反面教師であると。
「ユニさんが、そう言ってたんすか……?」
『えぇ、そうよ』
「そ、っすか。 いやまぁ、それならいいんすけど……」
『?』
アシュタルテが勝手に言っている訳ではなく、ユニが言っていたのなら従わないなどという選択肢はなくなってしまうではないか、そんな不本意な感情が見て取れるハクアの妙な返しにアシュタルテが疑念を抱きつつある一方で。
シェルトだけは、己もそうだった為に気づけていた。
(ハヤテ様とは違うベクトルで憧れかけてたのかしら……)
憧れ方を間違えていたシェルトだからこそ、ともすれば〝破壊を司る神〟とさえ呼べてしまえそうなクラディスが持つある種の神々しさに、間違った憧れを抱きかけていたのだろうと見抜いていた。
……まぁ、シェルトほどではないとはいえハクアもまたユニへ強い憧れや畏敬の念を抱いてはいる為、流石に聞き入れないなんて選択はしないだろうとも見抜いてはいたが、それはさておき。
「ッ、と……ははッ、流石に血ィ抜きすぎたかァ……!?」
「そりゃそうさ、常人ならとっくに死んでるよ」
「……! 常人、ならァ……!? ひはッ、いいなァそれ……!」
「……」
満身創痍という表現が軽く思えてしまうほどの重傷を負った状態でなお、Lv100の迷宮を護る者を一撃で葬る力を振るい続けていたクラディスも、〝HPの減少〟はともかく〝失血〟ばかりは流石に如何ともし難いようで。
もはや焦点が合っているかも怪しい瞳を浮かべつつも、ユニから暗に〝異常者〟と呼ばれた事を、むしろ悦んでいるような反応で返すクラディスに呆れて物も言えない様子のユニ。
……焦点が合っているかも怪しい、と言ったが。
事実、クラディスの瞳の焦点は合ってなどいない。
──【狂奔術:狭窄】。
魔力によって自らの視野を極端に狭め、DEXの数値をゼロにする代わり、その数値分ATKを強化する支援系技能。
元より失血多量の影響でボヤけている筈の視界を自分から狭めていくという自殺行為を、強化と勝利の為に致し方ないとはいえこの局面で選択し、そして実行できるというのはやはり異常であると言わざるを得ないだろう。
……しかし、それでもユニには届かなかった。
普通の事をしていては、ユニには届かない。
それを、ユニの言葉が教えてくれた。
常人であるな、異常者であれ──と。
「お、おォォォォ……ッ!!」
「「「「……!?」」」」
『何よ、アレ……ッ』
そして次の瞬間、何故か斧型の迷宮宝具であるラブリュスを用なしとばかりに背負い直したクラディスは、もう片方の手にあるミョルニルを両手で握り直すとともに。
これまでとは比較にさえならないMPを注ぎ込み出した事に、シェルトたちはもちろんSランクという存在に充分すぎるほどの脅威を感じているアシュタルテさえ警戒心を露わにする中にあり。
クラディスは、ミョルニルに充填した暴虐的なMPを。
「だったらよォ!! 異常者は異常者らしくゥ……!! 常軌ィ!! 逸させてもらうぜェエエエエエエエエッ!!」
「【槌操術:竜巻】!? なんて規模と風圧……ッ!!」
「それに、ミョルニルの雷も……!!」
「こんなの、もう……本当に……ッ」
「厄、災……!」
槌、或いは槌を装備した自分ごと回転させて竜巻を発生させる攻撃系技能、【槌操術:竜巻】の発動で全解放し。
「イくぜェ万のォ!! 受けるも避けるもテメェの自由!! コイツをどうにかしてみろやァアアアアアアアアッ!!」
ミョルニルの能力である〝雷霆〟も相まって、もはや災害と称する事さえ生温く感じてしまうほどの雷鳴と雷光と雷撃を伴う超巨大規模の竜巻が、ユニを目掛けて襲来せんとする一方。
「……?」
ユニだけが、何らかの違和感を抱き続けていた。
視覚を風で、聴覚を雷で強く刺激されていてもなお。