見えてきた3つの強み
「こんなものじゃないだろう!? お前の本気は!!」
「そりゃあね。 まだまだ序の口さ」
リューゲルたちがユニの強みについてを語らんとする中、トリス【盾操術:防撃】で攻防一体の突撃を仕掛けるとともに、盾・槍・銃と殆ど時間差なく切り換えながらユニを翻弄しようとするものの、ユニは全く以て余裕を崩さない。
何しろ、アイギスを展開してからおよそ3分。
ユニは、まだ1歩もその場から動いていないのだ。
後方で翼のように広がって浮かぶ8つの水晶は今、右側の4つが固まって大きな盾、左側の4つがバラけた大きな爪となり、1発1発がLv100の迷宮を護る者の鱗を貫き脳を揺らすほどの威力さえ併せ持つトリスの攻撃の全てを、くんっと指を動かすか、くるっと手首を裏返すか、ふいっと腕を払うかして完璧に対処している。
どうやらアイギスはユニの両手と連動しているらしい。
……という事実をいち早く見抜いたハヤテは、トリスとの攻防の中でユニの片腕が伸び切った瞬間を、音速で動いていても絶対に標的を見逃さない圧倒的な動体視力で以て看破し、近くに居た5体の分身に指示を出しつつ自分もアラクネを構えて──……特攻する。
壁や地面との摩擦で発生する熱によって火属性の斬撃を可能とする爪の技能、【爪操術:導火】。
地面を掘削できるほど高速回転させた爪により、土属性と風属性を付与して貫き引き裂く爪の技能、【爪操術:穿孔】。
半透明かつ非接触の半球状の結界を展開し、そこに立ち入った者を神速で斬り捨てる刀の技能、【刀操術:抜刀】。
1撃目を打ち下ろした後、即座に燕の羽のように返す刀で2撃目を見舞う刀の技能、【刀操術:飛燕】。
5つの属性を操って戦う忍者の技能、【忍法術:五行】による水と風の合成忍術、【冰遁:凍大蛇】。
同じく【忍法術:五行】による水と土の合成忍術、【木遁:森巨精】。
(真後ろと真下も含めた6方向、6種類の技能の同時攻撃! 流石のあんたでも見えないとこまで対処できないでしょ!?)
右、左、前、上に加え、まず間違いなく完全な死角となる真後ろと真下も合わせて6つの方向から6つの異なる技能による神速の同時攻撃ともなれば、いくら〝目〟に関するユニの強みがあってもダメージは与えられる筈だと確信しての作戦だったわけだが。
「遅いよ」
「ッ!?」
「トリス、ちょっと退いて」
「ぐ……ッ!」
瞬間、ユニの綺麗な両目が全く違う6つの方向へとぎょろぎょろ動き出したかと思えば、つい数瞬前までトリスと渡り合う為に使っていた筈のアイギスのうちの2つで強く弾いてトリスを僅かに後退させ。
「大して消耗してないけど──【杖操術:吸魔】」
『『『『『な……ッ!!』』』』』
残る6つの水晶を宙に浮く杖の形へと変化させると同時に、杖で触れた魔術や技能、生物や迷宮宝具から魔力や丹力を吸い取る技能を発動させて無力化しつつ、ハヤテと分身たちを迎撃した。
「『視線は散らせ、敵意を悟られぬように』。 忘れてた?」
「く、ぅ……っ、まだ、これからよ……!!」
完全な死角にまで対応できたのは、どうやらハヤテがユニからの教えを怠ってユニの背後や足元に視線を遣ってしまっていたのが原因であったようで、アイギスの直撃こそ何とか避けられたが馬鹿にされたという事実に悔しげに歯噛みしながらも再びユニの前から姿を消す。
(【賢才術:万能】でハヤテとトリスには状態好化を、ユニには状態悪化を付与してる……おまけに【賢才術:山彦】でどっちも二重に付与されてる筈なのに、ここまでの差があるなんて……!)
一方、今の一連の攻防を繰り広げた2人だけでなくユニに後退させられたトリスも含め賢者の技能による魔術で味方2人を強化、ユニを弱体化させたうえで、一定時間1回分の魔力で2回分の魔術を発動できるようになる技能と併用していた事から、どちらにも2倍近くの効果が出ている筈なのに、どうして──とクロマが焦る中。
「やっぱ見えてやがるのか!? じゃねぇと、31の分身と同時に仕掛けるハヤテの攻撃に反応できる理由に説明がつかねぇぞ!?」
「……あれもユニさんの強みの1つなんですか?」
ハヤテが何の技能を発動させて攻撃したのか、そもそも何回攻撃したのかさえ全く見えなかった武闘家の叫びに同調するように、リューゲルやフェノミアへ商人が『ユニの強み』を聞き出すべく問いかけたところ、2人は互いにちらりと視線だけを合わせた後、然りと頷いて。
「ユニの1つ目の強みは、未来視にも近い〝動体視力〟。 この世界で最も優れた動体視力を持ってんのは複眼を持つ昆虫から派生した竜化生物だが、ユニは複眼もなしにそれらを上回る動体視力を持って生まれた。 ハヤテの動きなんざ止まって見えるんだろうよ」
1つ目は常人のそれどころか、派生元を遥かに上回る身体能力や感覚器官を持つとされる竜化生物すらも凌駕する動体視力であると明かすとともに、ハヤテの音を超える一挙手一投足でさえユニの目にはスローに見えている筈だと語った。
そして、その動体視力はハヤテのそれを上回っており。
丹力の総量や馬鹿げたSPDを除き、動体視力だけを鑑みるならばユニはハヤテの完全上位互換だと言える。
「な、何すかそれ……! 反則じゃないっすか……!」
「……才能を反則と言うのは違うだろう」
「いや、そりゃそうかもっすけど……!」
ただでさえ、あらゆる職業や武装の適性がSランクだと噂されるユニに、それとは別の反則じみた才能を持っているなんてズルいではないかと素直に嫉妬する盗賊を、リーダーである戦士が諌めた。
……そんな彼も、ひっそりと舌を打っていたのは内緒だ。
「2つ目の強みは、あの娘の頭の中に何人か居るんじゃないかってくらいの〝並列思考〟ね。 目で追えたところで、それを頭で情報として処理できなければ意味はない。 けれど、たとえ100匹の竜化生物に囲まれてもあの娘は一瞬で現状把握と要因解析を終わらせる。 33人程度なら、そりゃあ余裕よね」
そんな中、フェノミアが語り出したユニの2つ目の強みはユニの中にあと2、3人居ても不思議ではないとさえ思わせるほどの並列思考能力であり、『この攻撃は防ぐ』、『この攻撃は躱す』、『この攻撃は迎え撃つ』という処理を、ハヤテが30人増えたところでできなくなる筈がないとフェノミアは確信しており。
ハヤテよりは遅くとも総合力で上回りかねない迷宮を護る者以外で迷宮に出現する竜化生物の下位個体、〝迷宮を彷徨う者〟が100匹、下手すると1000匹が雁首揃えたところで結果は同じだろうと語ったが。
「……けど、いくら見えてても情報として処理できてても反応できなきゃ意味ないんじゃ──……まさか?」
「あぁ、そうだ」
動体視力で捉えたもの、並列思考で処理したものを実行できるだけの反射神経がなければ何の意味もと反論しようとした魔術師の声が途中で止まり、それで全てを察した事を理解したリューゲルは。
「3つ目の強みも脳に関するモンでな、〝信号の伝達速度〟だ」
「信号の……」
「伝達速度、っすか?」
「普通、人間が脳で考えて身体に命令する為の神経信号を出すまで最低でも0.2〜0.3秒はかかるらしいんだがな。 あいつが脳で考えて信号を出し、それを実行するまでの時間差は──0だ」
「「0ッ!?」」
「考えた瞬間には、もう終わっている……と?」
2つ目と連動する3つ目の強みは脳の信号の伝達速度、普通の人間なら同じ事を考えていても必ずできる1秒以下の隙の間に、ユニは並列思考で処理した結果を一切の時間差なく実行できると明かす。
この攻撃は防ぐ、この攻撃は躱す、この攻撃は迎え撃つ。
そう考えた時にはもう、全ての行動を同時に完了させている。
そんな事は、リューゲルにもフェノミアにもスタッドにも。
もちろん、トリスにもハヤテにもクロマにもできない。
唯一無二の、ユニの才能なのである。
まぁ、先の2つも大概そんな感じなのだが。
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