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優先すべきは──

 アイツとは、言うまでもなくハクアの事。


 要は、ハクアを手の届くところに置いておきたいのだと。


 遊び相手(オモチャ)縄張り(シマ)の中に囲っておきたいのだと──。


 クラディスは、そう曰っているのだ。


 これには流石のユニも若干だが面食らっていた。


 ユニもハクアの才能は見抜いていたし、ある程度とはいえ認めてもいたし、クラディスが同様にハクアの才能を見抜く事も、その才能を認めるだろう事も考慮してはいたのだが。


(あの〝下剋上症候群(ふざけたセンサー)〟に引っかかるほどとは……)


 どうやら、ハクアの〝可能性〟を見誤っていたらしい。


 その事に気づいた直後、若干の後悔こそあったものの。


(……まぁいいか別に)


 だからといって、ユニのやる事が変わるわけではない。


 ゆえに、ユニは溜息1つこぼしてから厄災と目を合わせ。


「いいよ、あげても」


「マジかァ!? 言ってみるモンだなァ!!」


「なッ、ユニ様……!?」


 かたやクラディスが歓喜の声を、かたやシェルトが困惑の声を上げざるを得なくなる、〝ハクアの譲渡許可〟をハクア本人やシェルトたちの意向を無視する形で承諾しようとするユニにも、もちろん考えはあり。


「その代わり、1つ条件がある。 それを呑むならだよ」


「おォ言ってみろよ! 今のアタシ様は優しいからなァ──」


 交換条件を提示し、それを受け入れるならばと告げられたクラディスは、ハクアとの戦いによる愉悦やユニとの邂逅による興奮で結構な上機嫌であった為、『大抵の条件は聞いてやる』と笑顔を浮かべてユニの二の句を待つ筈だったが。


「ハクアを取るなら、もう2度と私はこの国にはい──」


 提示されようとした条件を聞き終わる前に──。


「「「「……ッ!?」」」」


「おっと」


 瞬時に【槌操術:地震(クエイク)】と【斧操術:十戒(モーゼ)】による土属性と水属性の双撃を見舞ったクラディスの行動に、シェルトたち4人が絶句してしまうほどの衝撃を受ける一方で。


 もちろんと言うのもアレだが、ユニはユニで〝亜空間から盾を捻出〟、〝スロットに盾を設定〟、〝DEF(物理防御力)MND(特殊防御力)の強化〟、〝盾の巨大化と更なるDEF(物理防御力)の強化〟、〝迎撃用の攻撃系魔術アタックスペル〟という5つの技能スキルをほぼ同時に発動しながら涼しい顔でクラディスの双撃を受け止めるとともに。


「交渉、決裂かな」


 あらかた予想できていた結果を呟くユニに対して。


「ッたりめぇだろうがよォ!! 論外だンなモンはァ!! テメェとの戦い以外に優先すべきモンなんざねぇんだよ!!」


「そう。 じゃあ諦めてくれるんだね?」


「あァ良いぜェ? そン代わりィ……!!」


 下剋上症候群の罹患者が求める者の条件には〝現時点で宿主より強い者〟か〝将来的に宿主より強くなる者〟の2つがあるものの、やはり優先すべきは前者であるらしく、やたらあっさりハクアを諦めたなと一息つこうとしたのも束の間。


「今ここでアタシ様と1対1(タイマン)張れやァ!!」


「……言うと思った」


 クラディスが交換条件として提示してきたのは、ハクアにもシェルトたちにも、そしてユニの背後にうっすらと見える黒い何某かにも、誰にも邪魔させない正真正銘の1対1(タイマン)


 もちろん、この交換条件についてもユニには予想がついていた為、呆れながらも盾でクラディスを押し返してから。


「いいよ。 その代わり、やるなら全力でだ。 いいね?」


「当然だろうが! 手なんか抜いたら許さねぇぞォ!?」


 もはや使う必要もないのだろうが、【盾操術:挑発(アトラクト)】によってクラディスの視線と意識を完全に己へ釘づけにし、〝鬼さんこちら〟と手招きするユニに我慢が利かなくなったクラディスが狂気的な笑みを浮かべて駆け出していく中。


(ユニ様が敗けるなんて有り得ないって解ってるけど……ッ)


 すっかり蚊帳の外となってしまったシェルトは、ユニの勝利は揺るぎないと解ってはいても、つい先ほどまでの暴虐を見せつけられた後ではどうしても不安になってしまい。


 無謀だし不可能だと解っていながら立ち上がりかけた時。


『こんばんは、良い夜ね』


「「「「ッ!?」」」」


 突如、自分たち以外には誰も居なかった筈の戦線の後方から艶やかな女声による挨拶が聞こえてきた方へ振り返ると。


『私の名前はアシュタルテ、ユニに召喚された悪魔よ』


「あ、悪魔……!? どうしてユニさんが……!」


 そこには己を悪魔だと名乗る長身かつ絶世の美女がふわりと浮かんでおり、いきなり悪魔が現れたというだけでも驚きなのにユニが召喚主マスターだと聞き更に疑問が募る4人だったが。


『あの2人の戦いの余波から貴女たちを護るよう仰せつかってるの。 だから、しばらくは大人しく観戦してなさいな』


 どうやらアシュタルテは、ユニからの命令で4人の護衛を頼まれているらしく、あくまでも講習セミナーの一環であるからか以前よりも透明度の高い【悪魔の防護盾(デモンズシールド)】を展開したものの。


「わ、私たちでも──」


 シェルトはシェルトで悪魔に頼りたくないのか、それとも単にこれ以上の弱みを見せたくないからか、『私たちでも自衛くらいはできる』と主張しようとしたのだろうが。


「「「「──ッ!?」」」」


 さっそく余波として途轍もない勢いで飛来してきた岩塊は半透明な円状の盾に強すぎる衝撃を与え、ヒビこそ入らずとも盾の後ろにまで響いた轟音は、それだけで4人を萎縮させ。


『私たちでも──何?』


「い、いえ……ッ」


『いいからその目に焼き付けなさい。 怪物同士の1対1(タイマン)を』


 アシュタルテ自体の圧も相まって、もはや4人は言われるがままに、最強と厄災の戦いを見届けるしかなくなった。

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