相対する最強と厄災
ハクアがクラディスと対峙していた理由は、ただ1つ。
これが、〝護衛クエスト〟の一環だったから。
もう少し正確に言えば、〝今回の主だった課題である採取クエストを完遂するその時まで、ユニをクラディスから隠し通す事〟が目的となる護衛クエストの一環だったからだ。
そうでさえなければ、ハクアだって【狂鬼の戦乙女】との1対1など受けたくはなかった筈だし、たった今この瞬間ですら這ってでも逃げたくてたまらない筈なのだから。
……しかし、そうも言っていられないのが現実であり、
ユニの存在を隠し通すという事は、たとえ何が起ころうとユニを介入させてはならないという事でもある以上──。
「ゆ、ユニさん……すいません、自分が、弱いせいで……」
己が不甲斐ないばかりに圧倒的な劣勢を強いられ、せっかく仲間たちが採取を無事に終え、これ以上の戦闘を避けられるようになったというのに、クラディスを実力でも説得力でも抑え込む事ができなかったと傷だらけの身体を押して頭を下げたのも束の間。
「及第点だよ、ハクア。 後は私に任せて休んでるといい」
「……ッ! は、はいっす……!」
ユニから返ってきたのは初日に赤点を叩きつけてきた者と同一人物とは思えぬ柔和な声音から来る通知と、よしよしと親が子を褒める時が如く頭を撫でる優しい手つき、いつ発動したかも解らない【神秘術:回復】による温かな治癒の光。
ユニの指が誇る魔力伝導率を考慮してもなおMP消費量は少なく、おそらくは最下級魔術だったのだろうが、ハクアの全身に刻まれていた夥しい数の負傷はもちろんの事、失った血液や精神的な摩耗までもが癒されていると実感し。
情けないやら安心するやらで堪えきれなくなってポロポロと涙を流しつつも頷き、シェルトの肩を借りて戦線離脱するハクアを見送った後、如何にも面倒臭そうな表情で振り返ったユニが。
「久しぶり、クラディス。 できれば会いたくなかったけど」
如何にも面倒臭そうな声音で挨拶したというのに。
「はッ、つれねェ事言うなよ万の! 1年と257日ぶりの逢瀬だぜェ!? もっと悦んでくれてもいいじゃねぇか!!」
「……そんなんだから会いたくなかったんだよ」
文句をつけるどころか以前ユニと会って戦った日まで細かく記憶してという異様さを披露してきたクラディスに、ユニはすでに疲労困憊といった具合に溜息をこぼしつつ、その時の事を思い出す。
……そういえば、あの時も今と同じように〝前に戦った時の日付〟を細かく覚えていて『うわぁ』と引いたな──と。
「にしてもよォ、万の! さっきのお嬢サマは中々のモンだったぜェ!? 遊び相手としちゃあ上々だったかもなァ!!」
「【狂鬼の戦乙女】のお墨付きか……同情するよ」
「まァそう言うなって! ンで思いついたんだがよォ──」
そんなユニのドン引き加減など知った事かとばかりに話題を変えたクラディスの矛先は、ほんの一部とはいえハクアに向いたままであったようで、ニカッとギザ歯を露わにして笑ったかと思えば、ユニにも予想し得なかった言葉を口にした。
「──アイツ、アタシ様にくれよ! なァ!」
「……そう来るのか……」