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狩人講習:5日目・厄災襲来 (承)

 狂戦士バーサーカーへの転職を果たしてからというもの、ハクアの前衛としての才能の開花は目覚ましく、さほど向いてもいないのに持ち前の技量や度胸だけで半ば無理やり前衛として機能させられていたハーパーのそれとは一線を画しており。


 単純な1対1の近接戦において、シェルトが手も足も出なくなったのは言うまでもない事だろうが、そこにシェイが加わった1対2の状況でも〝遠隔攻撃禁止〟という縛り有りとはいえ僅差で勝利してしまうくらいには成長していたのだ。


 だが、そんなハクアは今──。


「は、ハクア……ッ、嘘でしょ……!?」


 技能スキルでもなければ、ほんの僅かな魔力さえも帯びていない単なる【槌】の一振りで以て叩き潰されてしまっていた。


 魔力を帯びていないとは言ったものの、そもそも技能スキルを発動していないのなら魔力も何もないと思うかもしれないが。


 技能スキルを発動せずとも武装アームズが魔力を帯びる場合もある。


 それは、装備している武装アームズ迷宮宝具メイズトレジャーである場合。


 ──〝ミョルニル〟。


 クラディスの武器の1つにして、Sランクの迷宮宝具メイズトレジャー


 能力は、〝雷霆〟。


 軽く一振りするだけで周囲の生物の鼓膜を突き破り意識をも奪いかねぬほどの雷鳴が轟き、ひとたび叩きつけようものなら網膜を灼き潰す稲光と細胞の一片まで破砕する電撃を発生させるという、あまりに破壊的で破滅的な黄金の【槌】。


 また、その性能に比例してか性格は残忍そのもの。


 ユニが所有する三叉槍の迷宮宝具メイズトレジャー、トリアイナに比肩するどころか【狂鬼の戦乙女(ワルキューレンオーガ)】の凶暴性に引っ張られたせいで形状さえも禍々しくなり、もはやクラディス以外では装備する事はもちろん触れる事すら難しい専用武器と化していた。


 そして言うまでもないが、迷宮宝具メイズトレジャーの能力を使えるという事は、能力を使わない事もできるという事であり、たった今ハクアを叩きのめした一撃も能力を使わない単なる振り下ろしであった為に原形を留めていられたのだろう。


 逆に言えば魔力が欠片も込められていない単なる振り下ろしの一撃で将来有望な同業者を仕留めたのだから、やはりSランクは常軌を逸していると残る3人が戦々恐々とする中。


「ん〜……やっぱ、まだこの辺に居るよなァ」


「……ッ」


「テメェらに聞かずとも見つかりそうなモンだが……」


 すんすんと鼻を鳴らしているという事は嗅覚で感知しているのか、それとも常人では理解できない何らかの感覚で察知しているのかは定かでないものの、クラディスの言う通り居所を暴かれるのは時間の問題だと悟ったシェルトは意を決し。


「……お、お教えする事はできません……ッ、これも、講習セミナーの一環だとユニ様は仰いましたから……ッ!」


講習セミナーだァ? 何だってンな下らねぇ事を──」


 講習セミナーの一環だからというのは建前で、ユニからのお達しだからという本音が透けて見える否定の意を叫び放ち、それを受けてもなお諦める気などさらさらないばかりか、4人が今まさに受けている最中の狩人講習ハンターズセミナーそのものをコケにするような物言いを口にしようとしたところで。


「──……あァそうか、そういやよろずのはちっとばっかし前に離脱したんだったな。 あの()()()()()()()()()()()()()()から、ようやっと解放されて自由の身って訳だ」


 少し前に鏡試合ミラーマッチを行い、その結果として虹の橋(ビフレスト)を離脱した事実をユランリークの各所にも設置されているウアジェトの子機から観た事を思い出しつつ、よりにもよってシェルトたちの前で虹の橋(ビフレスト)を揶揄するように吐き捨てた事が切っ掛けとなり。


「な、何ですって……?」


「あ?」


「しぇ、シェルト様……ッ」


 シェルトの中で一瞬、恐怖を怒気が上回った。


 ……上回って、しまった。


「お言葉ですが! 虹の橋(ビフレスト)竜狩人ドラゴンハンターとして完成されたパーティーでした! 討伐、捕獲、採取、狩猟、探索、護衛! クエストというクエスト全てを()()()()()()()絶対的な存在! ()()()()()()()()で全狩人(ハンター)の頂点に昇り詰めたあの方たちを愚弄するなんて、たとえユニ様が許しても私が──」


 かつてないほどの早口で捲し立てている相手がユニと肩を並べるSランク狩人ハンター、【狂鬼の戦乙女(ワルキューレンオーガ)】である事も忘れて『許さない』などと出来もしない事を曰うシェルトの長々とした主張は──。


「──テメェには、()()()()()()()()?」


「……え?」


()()()()()()()()()()()? って聞いてんだよ」


「何を、言って……」


 クラディスからの何やら意味深な、それでいて核心に迫るようでもあるような問いかけによって遮られしまい。


「……よろずのも厄介な雑魚に絡まれちまったなァ」


「は……? 一体、何を……」


「あァもういい。 他3匹はどうでもいいが、テメェは今ここで殺した方が良さそうだ。 よろずのの為にも、そんで──」


 その問いかけの意味を理解できなかった事にも、そして誰を指して〝厄介〟と言っているのかさえ確信を持てていない事にも呆れた様子のクラディスは、もう片方の手で握っていた【斧】を振り上げ【斧操術:丸鋸(バズソー)】を発動、ただ叩きのめしただけのハクアと違って確実に両断するべく刃を回転させ。


「──テメェの優秀な取り巻きの為にもな」


「な……ッ」


「「シェルト様ッ!!」」


 空気との摩擦で激しい火花が散るのも、シェルトと己との間に残る2人が割って入ろうとしているのも構わず。


 命を刈り取る為だけに在る、その刃を振るった──。











「──ッたく、黙って死んでりゃいいのによ」

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