狩人講習:5日目・厄災襲来 (起)
──現在、時刻はちょうど0時を過ぎたところ。
つまり、狩人講習は5日目に突入し。
本命である採取クエスト達成を目前にして──。
「オイオイ返事くらいしろや万のォ!! わざわざユランリークに来たって事ァ、アタシ様とヤりてぇんだろォ!?」
「ゆっ、ユニさ──」
ユニを〝万の〟などと呼び捨て、〝アタシ様〟などと一風変わった一人称で己を呼ぶ暴虐の化身が現れた事で、これが自分たち主体のクエストの一環だと解っていてもなお無意識下でユニへ救いを求めようとしてしまったシェルトの視界の先に。
「──ま……?」
もう、ユニは居なかった。
つい数秒前までは、すぐ隣に居た筈なのに。
(……ユニ様なら【忍法術:隠形】で姿を消されましたわよ)
(なッ、それじゃあ護衛の意味が──)
その瞬間を垣間見ていたハーパーが言う事には、どうやら乱入の衝撃が4人を襲った頃にはすでに忍者の技能を発動していたらしいのだが、だとしたら護衛をクエストにする意味などなかったではないかと疑問を抱いた直後。
(──……待って、もしかしてそういう事?)
(おそらくは)
シェルトは即座に、そしてハーパーはシェルトに問われるまでもなく、ユニが姿を晦ませるに留まった意図を悟る。
もし、ユニが彼女との接触を避けたいだけなら姿を消さずとも転移すればいいだけの話であるし、そもそも講習の為ゆえ致し方ないとはいえユランリークへの入国を避ければよかった筈。
それをしなかったという事は、つまり──。
純粋な戦闘、或いは巧妙な駆け引きで以てユニの存在を隠し通し、【狂鬼の戦乙女】の脅威から生き延びてみせろ。
という、裏の意味があったのだろうと悟ってしまった。
前者は──……まず不可能。
ユニには劣るのだろうが、それが何だ。
4人からすれば、どちらも怪物である事に違いはない。
ならば駆け引きか、もしくは──そう思案していた時。
「ッかしいな、この辺に居る筈なんだが──……あ?」
「「「「ッ!!」」」」
「何だテメェら、いつからそこに居た」
「「「……ッ」」」
弱者は眼中に入れる価値さえないとばかりに、たった今シェルトたちの存在に気がついたというような反応を見せ、こちらを向くと同時に下手な【武神術:覇気】以上の圧を何気ない質問とともにぶつけてきた厄災に、もはや3人は息を呑む事しかできなくなっていたが。
「……あの人はもう居ないっすよ、【狂鬼の戦乙女】」
「「「!?」」」
「あァ……?」
ただ1人、気圧されつつも1歩前に出て質問に答えたハクアに3人が驚愕する中、【狂鬼の戦乙女】は特に感心したり関心を持ったりする事もなく、〝あの人〟──つまりユニの所在にのみ疑念を抱いたまま。
「じゃあ今どこに居やがる、さっさと言え雑魚」
「お……ッ、教えて欲しいなら、自分を倒──」
教えないなら痛い目に遭う事になる、そう言っていなくとも解る己の末路を予感しながらも、ただではやられまいと武器を構えて臨戦態勢を整えようとしたハクアだったが。
残念ながら、その闘志が実を結ぶ事はなかった。
何故なら、そう言い終わるより早く──。
「──そうかよ」
「え──」
「じゃあ死んでろ」
「「……ッ!?」」
「ハクア!?」
いつの間にか目の前まで接近し、いつの間にか【槌】を頭上に掲げ、いつの間にか【槌】を振り下ろしながら死を宣告していたSランク狩人の技能でも何でもない魔力を帯びぬ一撃はハクアを一瞬で撃ち倒し。
「テメェらみたいな雑魚に構ってやるほど、アタシ様は暇じゃねぇんだ。 質問に答えるか、今ここで挽肉になるか──」
「「「……ッ!!」」」
ハクアを案じて駆け寄る事も許さない圧力を乗せた声を投げかける、その竜狩人の名を改めて告げておこう──。
──【狂鬼の戦乙女】──
──〝クラディス〟──
「選ばせてやるよ、アタシ様は優しいからな」
嫌でも脳裏に刻みつけ、こびりついて離れなくする為に。