狩人講習:4日目・採取クエスト (上)
狩人講習、4日目の朝──。
「「「お、おはようございます……」」」
「生気がないね、大丈夫?」
「「「はい……」」」
今日も今日とて朝の挨拶を交わす5人の内、平常運転なのはユニ1人のみであり、連日の激動を経て流石に解消し切れぬ疲労が蓄積しているシェルトやハクアたちとは対照的に。
「おはようございます……っ!」
「おはよう。 君は元気そうだね、シェイ」
「はい! 元気です……!」
いつもは頼んでもないのに声量を抑えがちなシェイだけが何故か随分と快活な挨拶をし、それに対して特に面食らう事も違和感を抱く事もなく応答するユニだったが。
おそらくは、シェイよりも遥か格上の【妖魔弾の射手】に多少なりとも褒められたという事実が自信の向上に繋がったのだろうと理解していたからこその無反応であった。
……まぁ、それはそれとして。
シェイの快活さへの反応が薄いのには、まず間違いなく他3人の覇気のなさの方が気になったからというのが大きく。
「今日と明日は連日で同じクエストに挑む強行日程を課題にするつもりだったんだけど……この体たらくだとなぁ」
「ッ、い、いえ! やります! やらせてください!」
露骨に失望したような声音で今日、そして明日まで続く日を跨ぐ形の課題を、こんな疲労困憊の状態ではこなすにこなせないだろうと見切りをつけようとしたユニに、シェルトが筋肉痛で軋む身体を押してまで一歩前に出て主張する中。
「君たちはそれで良いのかい?」
「「……はい」」
「ふぅん……?」
残る2人の苦い表情から、ユニは何かを察してはいたが。
「ま、いいや。 それじゃあクエストの説明をするよ──」
あえて、ここでは言及せずに課題の説明に移行する。
今回、黄金の橋が挑むのは〝採取クエスト〟。
先述したように、〝竜化生物との遭遇、及び交戦の可能性がある危険な場所〟へ赴きこそすれ、おおよその場合は依頼人側に交戦を避けてほしい何らかの理由がある為、クエストを受けた竜狩人は細心の注意を払って挑まねばならず。
効率良く進んだ場合は竜化生物との遭遇さえせずに完遂可能であるという点から、新米たちへのABCとして相応しいのではと思われがちだが、そんな甘い話がある筈もなく。
注意不足からなる不意の遭遇が原因の負傷や犠牲、些細なミスからなる依頼人との折衝などなど、むしろ新米には荷が重いクエストだというのが竜狩人たちの共通認識であり。
そんなクエストの達成を前提とする課題の内容は、とある竜化生物の巣に忍び込み、そこに産み落とされた卵を、その巣の主を刺激する事なく採取する事──……ではなく。
「……なるほど。 つまり、その〝頼郭公竜〟ってのが元々その巣に産み落とされてた卵を喰い散らかそうとする前に掻っ攫う事で他の卵を護れって事っすね?」
カッコウの生態である〝托卵〟が、竜化した事で他の卵や孵った雛を喰らって成長し、しばらくしたら親である他種の竜化生物をも餌とする、ともすれば生態系を崩しかねないほどの危険性を秘めた竜化生物の卵を採取せよ、というもの。
よって今回、頼郭公竜はもちろん托卵された巣の主である竜化生物も合わせて2種、刺激してはならぬ相手が居るという事となり、どのタイミングでどちらの種が巣に戻って来るのかも解らない以上、根気強く粘り強い観察こそが肝要かもしれないと4人が腹を括る一方。
「基本的にはそうだね。 でも、それだけじゃないよ」
「えっ? どういう事ですの?」
「今回の採取クエストの内容にそんな依頼はないけど、ついでに〝護衛クエスト〟も経験してもらおうと思ってね。 とある狩人が、とある狩人に襲われないよう護衛してほしいんだ」
「とある、狩人? それって一体……?」
どうやらユニは、この2日を利用して通常の狩人講習ではあまり体験する事のない特殊な依頼、護衛クエストも並行して遂行してもらうつもりだったらしく、どちらも不明瞭なまま『狩人Aから狩人Bを護衛せよ』と伝えたものの。
当然それだけで伝わり切る筈もなく、4人全員がユニの言葉にきょとんとする中、ユニは細長い人差し指を動かし。
「──私だよ。 片方は私」
「……え?」
「ゆ、ユニさんを護衛? 何の冗談っすか……?」
「仮にそれが真実だとして、誰から護れと……?」
狩人Bは【最強の最弱職】であると明かしたが、この最強最高の竜狩人を一体どこの誰の魔の手から護れというのか、そして護る必要などあるのかという抱いて当然極まりない疑問を呈する4人に対して、然もありなんと頷いたユニ。
「……まぁ、そうだね。 昨日は『最後の希望が介入してくる』って情報しか与えなかったけど、今回は事前に教えてあげようかな。 ミアは手心を加えてくれても、あの狂人は容赦なく君たちを殺そうとするだろうから」
「狂人、って──……まさ、か……!!」
何しろ今回の相手は昨日のような、〝指1本の骨折〟や〝人造竜化生物による襲撃〟などという、お優しい手段で情けをかけてくれるような〝人間〟ではなく。
己の〝欲〟か或いは〝病〟にのみ従って強者を求め彷徨い、それを阻まんとする分不相応な弱者を弑す──。
「【狂鬼の戦乙女】。 私やトリスと同じSランク狩人さ」
「「「「……ッ!?」」」」
──〝最凶の狂戦士〟なのだから。