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【最強の最弱職】だって〝慰労〟くらいはする

 ここは、濃霧の森林(フォッグウッドランド)から少し離れた場所にある小さな町。


 名を、〝フォーロンル〟。


「「──乾杯」」


 そんな小さな町の、更に小さな酒場にて、ユニとワイングラスをかち合わせたのは、よもやよもやの最後の希望(ラストホープ)──。


 本日の講習セミナーにおける裏の功労者──【妖魔弾の射手(ファントムシューター)】。


 黄金の橋(ギャッラルブルー)の前に姿を現した時は装備していたマスクやゴーグル、ヘルメットなどを全て外した影響で、まるで初雪のように白い肌をした幼さの残る美貌と、より闇夜に溶け込む為だと言われれば納得してしまいそうなほどの漆黒に近い紺碧の髪を惜しげもなく晒し。


 ユニの奢りで頼んだワインを【妖魔弾の射手(ファントムシューター)】、もといミアは如何にも有り難がっているとばかりにグラスを両手で持ってちびちび呑んでは、こちらもやはりユニの奢りで頼んだおつまみを細い指で1つずつ摘んで食べている。


 ……【最強の最弱職(ワーストゼロ)】だって〝慰労ねぎらい〟くらいはするのだ。


「今日はごめんね、忙しいだろうに時間を割いてもらって」


「構わない、お陰で久しぶりに貴女と話せた。 嬉しい」


「……本当に思ってる?」


「思ってる」


「そう? ならいいんだけど」


 その証拠に、あの4人へ教えを説く際に向けていた無表情かつ厳格な表情などどこへやら、ミアへ向けているユニの柔らかな表情や声音は歳の離れた妹に対するそれであった。


 ……まぁ、ユニの方が5つも歳下なのだが。


 それから十数分、他愛もない話に花を咲かせながらおつまみを食べ切り、ユニには全くと言っていいほど兆候は見えずとも、ミアにはちょうどいい具合に酔いが回り始めた頃。


「それで? 君の目から、あの4人はどう映った?」


「……」


 2人きりの慰労会の本題、【妖魔弾の射手(ファントムシューター)】から黄金の橋(ギャッラルブルー)への講評を問うてきたユニに、ミアは数秒ほど思案した後。


「……これは、もしもの話」


「うん」


「これから先、狩人ハンター稼業を続けていく上で慢心する事なく、かつ五体満足の状態で研鑽を積み続けられたのなら──」


 あくまでも仮定、己の主観による講評だという事を前提とした上で、よくよく聞けば1人の狩人ハンターとして高みを目指すならば当たり前にこなすべき事を並べてから一呼吸置き──。


「──最後の希望(わたしたち)にまで届き得る、とは思った」


「へぇ……」


 それらを当たり前にこなすだけでは到底辿り着かないであろう領域に、あの新米たちは届く可能性があると呟いた。


 最後の希望(ラストホープ)、それは竜か首かを問わず全体の一握りほどしか存在しないAランクの中でも最上位に位置する、〝最もSランクに近い者たち〟を指し示す称号のようなもの。


 世界にたった7人という、ともすればSランクよりも稀少な狩人の1人になれるかもしれないと、その内の1人が仮定とはいえ口にしたという事実は途轍もない価値を生み。


「特に、あの錬金術師アルケミスト。 たったのLv24で絲蜘蛛竜しちちゅうりゅうの猛毒を中和できたのには驚いたし、そもそも【黄金術:属性アルケミックエレメント】で錬成される〝毒〟は術者の個性クセが顕著に表れる。 あの一瞬で私の個性クセを解析し、見抜いてみせた観察眼も評価に値する」


「珍しいね、君がそこまで誰かを褒めるなんて」


「……仕事ができる人は嫌いじゃない、貴女もその1人」


「そっか」


 そして付け加えるように、やたら早口でシェイの知識量や観察眼などを称賛し始めた事で、やはり嚮導役ガイドを引き受けたのは間違いではなかったらしいと己を納得させられたユニからの謝意も込められた笑顔に、ミアは気恥ずかしそうに少し俯いた。


 ……ミアもまた、ハヤテたちやシェルトたちと方向性こそ違えどユニへの何らかの想いを抱いているのかもしれない。


「じゃあ、他のメンバーについてはどうかな」


 尤も、そんな事など知る由もないユニがシェイについての講評は充分に得られたと判断し、シェイ以外の3人の講評へ移るようにと促したところ、ミアはやはり数秒ほど沈黙し。


「……狂戦士バーサーカー精霊術師エレメンタラー、あの2人も優秀だった。 まだ職業ジョブ武装アームズに振り回されているようにも見えたけど、それも今だけ。 しばらくすれば並のAランク以上の働きが望める筈」


最後の希望(きみたち)と同じくらいに?」


「きっと」


「なるほどね」


 同じ錬金術師アルケミストという事もあってか、あえてシェイ1人だけを特別扱いしているかのように先んじて評価したが、ハクアとハーパーに関してもシェイ同様に充分すぎるほど優秀であり。


 あの状況下ではボタンの掛け違い程度の覚束なさこそあったものの、あと4日の講習セミナーで修正すれば問題なくシェイ同様に最後の希望(ラストホープ)入りも見えてくるだろうと本心から評価した。


 ……ここまでは、良い感じだ。


 好感触、と言って差し支えないだろう。


「で、残る1人についてなんだけど──」


「──ユニ」


「ん?」


 では最後の1人はどうだと問おうとした瞬間、ユニの言葉を遮るように彼女の名を呼んだミアの目からは先程までの好感触な様子など何処吹く風といった具合に光が消えており。


()()は貴女にとって思い入れのある後輩だったりする?」


 名前さえ呼びたくないのか──そもそも名前を知っているのかどうかも怪しいが──アレと称した最後の1人、シェルトという少女はユニにとってどういう存在なのかと問い返してきた。


「別に? ただ3日間、面倒を見たってだけの下位互換だよ」


「……そう。 なら話は早い」


 その質問に一体どういう意味があるのかまでは理解できていないユニだったが、あるがままを言っても特に問題なさそうだと判断し、あまりにも冷然極まる返しで以て答えたところ、ミアは少しだけ安堵したように短い息を吐きつつも改めてユニを見据え。


「今すぐにでも、アレは()()()()()()()


「……」


 ある程度、予想はできていた〝忠告〟を口にした──。

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