狩人講習:3日目・捕獲 (起)
3日目となる今日の課題は、〝捕獲〟。
……2日目の〝掘土竜の討伐〟同様、少々毛色に〝ユニ風味〟が混じるだけの何の変哲もない課題だと思われたが。
「……ん、え? あれ……?」
シェイだけが1人、何らかの違和感を抱いており。
「シェイ、どうしたの? 何か気になる事が?」
「えっ? い、いえ、その……えっと……」
パーティーメンバーである以前に護衛対象であり、そして絶対的に上の身分に立つシェルトから問いかけられた事で、ただでさえ口数の多くない彼女は一層ビクビクしてしまっていたが、それでも1度気になったからには聞かざるを得ず。
「どっ、どうして今回、課題に〝クエスト〟とも〝達成〟とも付かないんでしょうか? これだと、まるで達成しなくてもいいみたいに思えてしまうような、気が、して……」
「「「あっ……」」」
「よく気づいたね」
「ど、どういう事ですか……!?」
その時点ではシェイだけが気づいていた、そしてシェイの問いかけによって3人が同時に気づいた確かな疑問──〝昨日の課題から取り除かれたもの〟についてを、あっさり肯定してきたユニとは対照的に4人は更に疑念を深めてしまう。
無理もないだろう、『達成しなくてもいい』という事は『達成できるとは思ってない』という事も同然なのだから。
「結論から言うと、今日これから君たちに遂行してもらうのはクエストじゃない。 竜か首かを問わず、それぞれの協会でクエストとは別に賞金の懸かった竜化生物──〝賞金竜〟の捕獲に挑んでもらう」
「「「「ッ!?」」」」
そんな疑念を抱える4人に追い討ちをかけるが如く降りかかってきたのは、竜狩人の狩人講習としては少々異例となる賞金竜の捕獲という課題であり、それを耳にした4人の表情は一気に強張ってしまう。
「で、ですがユニ様! 賞金首は大抵、〝高い賞金でも懸けなければ受注する価値を見出せない危険生物〟か、もしくは〝極端に目撃例が少なく半ば塩漬けとなっている稀少生物〟のどちらかだと聞き及んでおりますわ……!」
「下手な捕獲クエストより難易度が高いって学園でも習ったっすけど、そんなの新米の自分らに務まるんすかね……?」
そもそも賞金竜とは〝協会が表立って発注する価値がないと判断された、クエストとして討伐や捕獲されるには至らない竜化生物〟を指し、ハーパーやハクアの言葉を総合すれば〝よほど入り用でもなければ眼中にも入らない、入れるべきではない厄介な案件〟であるらしいが。
「だからだよ」
「「えっ?」」
「〝達成しろ〟とは言ってない、シェイの言う通りさ。 はっきり言っておこうか? 私は今日、君たちが賞金竜を無事に捕獲できるなんて思っていないし微塵も期待していない。 だから未達成でも良しとする、あくまでも〝挑戦〟が目的だからね」
「「「「なっ……!?」」」」
よくよく考えれば【最強の最弱職】がそれを理解していない訳がなく──【最強の最弱職】だからこそ厄介だとは思っていないという可能性もあったろうが──シェルトたちが抱いていた最悪の疑念がそのままの形で、そして人当たりの良い爽やかな笑みとともに降りかかるという歪な光景に違和感を抱く間もなく4人は唖然としてしまう。
シェルトはもちろん、ハクアたち3人もまた元虹の橋のメンバーのみならずユニに対しても多少なり憧れを抱いている事は疑いようもなく、そんな相手から『期待していない』と告げられるなど何と残酷な事か。
……ちなみに、これでもユニに悪気は一切ない。
ユニは決して〝弱者を見下さない〟のだから。
客観的に戦力を分析した結果、不可能だと判断しただけ。
そんな事は、言われずとも解っていた。
解ってはいたが、受け入れられる訳がない。
……否、受け入れたくなどなかったのだ。
「……ユニ様! 私たちは、この2日で変わりました! 3日前までなら不可能だったやもしれませんが、きっと今の私たちなら達成できる筈です! ですから未達成でもなどと仰らず、〝達成〟を合格の条件としてください!」
「「「……!?」」」
その想いが4人の中で最も強かったシェルトは協会内の酒場にて注目を集める事も厭わぬ大声で、ハクアたちが『何を言ってるんだこの人は』という視線を送っているのも気づかず、『ユニの期待に応えてみせる』と主張する。
……応えるも何も端から期待などされていないのだが。
「そう? まぁ、それでもいいよ。 その代わり未達成なら何があろうと本日を以て狩人講習は強制終了、受講料は3日分でいいけど、私や私の幼馴染たちへの接触は完全に禁止とさせてもらう。 本当にいいんだね?」
「「「……ッ」」」
「構いません! 必ず成し遂げてみせます!」
その証拠に、ユニの返答は至ってシンプルかつ興味なさげでありながら、それでいて冷徹な一面を覗かせる懲罰にも似た提案をしてきたユニに対し、シェルトが独断で条件を変更した事に3人が困惑した辺りで話が切り上げられ。
「そっか。 じゃあ【通商術:転送】で〝賞金を懸けた人〟が住む場所まで転移させるから、その人から話を聞いてね」
「「「「はい!」」」」
朝食を終え、またも王都から遠く離れた場所での講習になると暗に告げつつ、賞金竜そのものの情報や賞金を懸けられる事になった経緯などの詳細は全て自分たちで収集しろとの指示を受けた4人が出立の準備を開始し。
「……あぁそうだ、最後に1つ。 君たちじゃ達成できないって言った最大の理由は、これから挑む賞金竜の捕獲に──」
その後、準備完了を告げてきた4人が【通商術:転送】の入口に集まったのを確認したユニが何気なく口にし始めた〝4人に期待していない理由〟、それを最後まで耳にした直後、4人は一様に己の耳を疑う事となる。
「──最後の希望の1人が介入してくるからだよ」
「「「「えっ──」」」」
「じゃあ、頑張ってね」
『ゆにぴ! これで今日は暇なんしょ!? だったらさ──』
「ごめん、今日はレベリングしたいからパスで」
『Σ(゜д゜lll)』