狩人講習:2日目・討伐クエスト (上)
──翌日。
「「「「お、おはようございます……」」」」
「おはよう、疲れは取れてないみたいだね」
「「「「はい……」」」」
結局、食後の運動とは思えぬほどの激しい試行を幾度となく繰り返した結果、休む前より疲れた上に翌日まで疲労を引きずるという最悪の事態に陥っていた黄金の橋。
「とはいえ手心を加えるつもりはない。 【最強の最弱職】を嚮導役として引っ張り出すってのは、そういう事だよ」
「ッ、もちろん、覚悟の上です……!」
「そう? ならいいけど」
講習2日目とは思えぬ疲労感を漂わせてはいるものの、そんな事実はユニからすれば全く関係のない事であり、ついて来れないのなら置いていくだけだと聞こえた4人が重い身体に鞭打って姿勢を正すやいなや。
「2日目の課題は〝討伐クエスト〟。 私が指定した竜化生物を討ち倒し、その証明となる部位を剥ぎ取ってきてもらう」
「「「「……!」」」」
2日目の課題、〝地上を蠢く者の討伐クエスト遂行〟を言い渡そうとしたユニに対し、4人から返ってきた反応が芳しくないというか表情が硬いというか、そんな風に感じたユニは『ははぁ』と全てを悟り。
「標的は地上を蠢く者だけど……もしかして、Lv100だの突然変異種だのと戦わせられるんじゃ、とか思ってた?」
「しょ、正直……」
「ユニ様ならば或いは、と……」
かの【最強の最弱職】が課すクエストともなれば、それこそ人智を超えた存在を相手にする必要があるのでは、そう邪推していたのだろうと半ば確信めいて問いかけたところ、やはりユニの推察は正しかったようで、4人は気まずげに苦笑する。
……実際、それらも候補ではあったらしいが。
「ま、いくら何でも死なれるのは寝覚めが悪いからね。 それじゃあ、さっそくクエストの依頼人が住む村まで行こうか」
「は、はい──」
流石に狩人講習で死人を出すのは後味が悪い──逆に言えば後味が悪い程度にしか危惧していないという事だが──為、初日の苦戦も踏まえて無難なクエストに落ち着かせたのだと明かす一方。
「──……えっ? あの、受注は?」
「私がやっておいたから」
「そ、そうでしたか。 それは──」
それはそれとして、クエストの受注は今からするのではないかというシェルトの疑問に対し、ユニから返ってきたのは何でもない事であるかのような『とっくに受注済みだ』という返答であり。
本来ならリーダーの自分がせねばならなかった事を、故意でないとはいえ任せてしまった事に『お手数をおかけしました』と頭を下げた──その時。
「お手数を──……え、あっ?」
「着いたよ」
「「「「!?」」」」
頭を下げた事で王都の石畳を視界に入れたのも束の間、次の瞬間には大して舗装もされていない地面の上に自分が立っている事に気づいて顔を上げると、そんな4人にかけられたユニの声で自分たちが転移したのだという事を知る。
「い、いつの間に【通商術:転送】を発動して……!?」
「いえ、それよりも……あの村は確か……!」
全く気づかない内に発動されていた商人の技能についてもそうだが、ハーパーはそんな事よりも先に気づいた事があり。
「令嬢にしては感心だね、〝タブル村〟を知ってるとは」
「それはもう! あの村の〝野菜〟は絶品ですので!」
その村の特産品は何か、と問われれば100人中100人がそう答えるくらいには正しく絶品な、それこそ貴族の食卓にさえ当たり前のように並ぶほど質の良い多種多様な野菜を育て、収穫し、そして流通させている村なのだと得意げに語る中。
(……そんな事、どうでもいい……本当に、どうでも……)
ただ1人、会話に入らず沈黙し続けている者が居た。
元より無口な方ではある元賢者、シェイである。
だが沈黙しているとはいえ何も考えてさえいないとかそういう事ではなく、もやもやと何かを熟考しているようだ。
(王都からここまで、どれだけの距離があると思って……ッ)
──そう。
実は、このタブル村──ドラグハートにおける最東端に位置する居住地であり、〝国土面積〟においても〝世界一の大国〟であるドラグハートの王都からタブル村までの距離は、それこそ並の小国であれば端から端まで届き得るほど。
少なくともシェルトでは村が見える範囲どころか、ギリギリ王都が見えなくなるかどうかという範囲くらいまでしか転移できず、やはり【最強の最弱職】とは伊達ではないとシェイは改めて畏怖していたが。
それも全てはユニの転職士のランクがEXであるがゆえ。
単なるSランクなら、こうはなっていないだろうから。
──……閑話休題。
「それじゃあ今回の依頼人、村長に挨拶しておいで」
「はい──」
話すべき事は話し終えたとばかりに、いよいよ依頼人への挨拶をしたりクエストの説明を受けたりしろと命じてきたユニの指示に頷き、4人は村へ向かおうと歩を進めかけたが。
しておいで、という物言いが妙に引っかかり。
「──……えっ? あの、ユニ様は?」
「私は行かないよ、黄金の橋名義で受注したから」
「え……あ、あぁ、そうなのですね」
もしやユニは行かないのかと問うたところ、どうやらユニはセリオスの許可を得てシェルトたち名義でクエストを受注していたらしく、せめて一言だけでも言っておいて欲しかったと思わなくもないが、詮なき事だと切って捨てられればそれまでである為、特に言及もせずに話題を切り上げた。
「それじゃ、私はクエスト終了まで離れて観てるから。 新たな職業と、刷新された武装。 存分に試してくるといい」
「「「「はい!」」」」
そして、もう用はないとでも言わんばかりに踵を返すユニからの激励──激励というほど心はこもってない気もするが──を受け、4人は件の村へと足を踏み入れる。
初日にも劣らぬ激闘を予感しながら──。