盾、爪、杖、そして──
武器でも防具でも装飾品でもない、何かを啓蒙する意志さえ感じさせるモニュメント、或いはパワーストーンのような銀色の水晶。
Sランクの迷宮宝具──アイギス。
「あ、あれが……ッ、ユニ様が本気を出されるに相応しい迷宮宝具なのですね……! 何と、何と神々しい……ッ!!」
「「「ユニ様ー! 素敵ですー!」」」
それを漠然と『何となく綺麗で強そうなもの』としか捉えられない──捉えようがないファンクラブの会員たちを始めとした一般恐ろしさの観覧客が『Sランクの本気の戦闘』を目の当たりにできる事実に盛り上がる一方、迷宮宝具の強さ、そして何よりを深く理解している者たちはある種の戦慄を抱いており。
「な、何ですかあれは……ッ、トリスさんの迷宮宝具と同じって言ってましたけど、とてもその程度の代物だとは……!!」
「何でできてるのよ、あれ……しかも浮いてるし……」
イージスが充分すぎるほどに優れた性能を誇り、どういう素材で作られた物なのかも解らないというのはそうなのだが。
あのアイギスという、もはや迷宮宝具なのかどうかも解らず当然ながら材質も一切不明であり、おまけに当たり前のようにユニを中心として宙に浮いているというあまりに不可思議な何かを、Lvが足りないからなのか【通商術:鑑定】で看破し切れなかった商人も、そもそも見抜く術がない魔術師も困惑の極みに陥る中。
「〝真正品〟の迷宮宝具ってのは大抵そんなモンだ。 材質はもちろん機構についても未だに謎めいた部分が多くてな、神々の遺物だの遺骸だのってのは比喩でも冗句でもねぇらしい」
「……流石ですね、あれほどの迷宮宝具を承伏させるとは」
かたやリューゲルは複製品の基となる真正品、要は迷宮の最奥で発見されたそのままの性能を持つ迷宮宝具の異質さを語り、かたや神官はさも訳知りであるというようにアイギスを従えているユニを素直に称賛する。
もちろん、イージスを承伏させているトリスも同様に。
「確か、貴女の【弓】もSランクの迷宮宝具だったものね。 その言い方だと、それなりに苦労したのかしら」
「……えぇ、まぁ」
ちなみに訳知り顔を浮かべていたのは、フェノミアの言う通り彼女が持つ唯一の武装である純白と黄金が基調の【弓】もまた、イージスやアイギスと同じSランクの迷宮宝具だったからのようだ。
──閑話休題。
「……しかし、こうなってはAランク2人の出番がなくなりそうですね。 いくら何でもSランクの、おまけに迷宮宝具の所有者同士の全力の衝突に割って入れるほどの実力があるとは──」
Sランクの迷宮宝具を使って戦うSランク竜狩人同士の戦いに、いくらAランク最上位とはいえど迷宮宝具もなしに2人の戦いに突入するのは無謀だというのは自明の理であり、ここからは実質1対1になるのではと戦士は推測していたが。
「──あいつらなら問題ねぇよ、ほら」
「えっ?」
どうやらその推測は的外れだったようで、リューゲルが指差した先ではハヤテとクロマがそれぞれ丹力と魔力を解放し始めており。
「無論、本気のお前を迎え撃つのは私だけではない。 この鏡試合は元より3対1なのだからな。 そうだろう? ハヤテ、クロマ」
「はッ、言われなくても解ってんのよ! 〝アラクネ〟!!」
「ボクも、頑張る……! 力を貸して、〝カドゥケウス〟!」
戦士の推測を嘲笑うように、ただの鉄製の鉤爪だった筈のハヤテのそれは次第に毒々しい色味に変わり、まるでそれ自体が1つの生物であるかのように脈動しながら鋭く凶悪でありつつも、どこか蠱惑的な美しさをも感じさせる爪になり。
クロマが両の手に装備していた白と黒の杖は、おそらく途轍もなく頑丈でもあった筈なのに、ぐにゃりと歪み始めたかと思えば互いが互いの支柱部分へと蛇のように絡みつき、1本の白と黒の杖になった。
「爪と、杖……! あれも迷宮宝具だったのか……!!」
「両方ともSランク……! あれなら確かに……!」
「参戦するに不足はないってわけっすね!」
当然と言うのも違う気はするが、どちらもユニたちの迷宮宝具と同様Sランクであり、それを従えられるだけの実力があるという事は即ちSランク同士の全力の戦いに介入する事も不可能ではないという事の何よりの証明であったのだ。
「ユニ。 先程までは前哨戦、ここからが本当の戦いだ」
「そのようだね。 じゃあ──おいで?」
「行くぞっ!!」
そして、いよいよ第2ラウンド。
生物としてのLv上限を迎え、もしも地上に姿を現せば1日足らずで一国を堕としてしまうだろうと云われる迷宮を護る者さえ、4人揃えば3分も経たずに討伐してしまうという、虹の橋による本気の内輪揉めの幕が上がる──。
『よかった!』、『続きが気になる!』と少しでも思っていただけたら、ぜひぜひ評価をよろしくお願いします!
↓の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてもらえると! 凄く、すっごく嬉しいです!