狩人講習:1日目・認識の刷新 (中)
何に見えてる? と、ユニが示した〝それ〟の正体。
世界のどこにでも存在する、ありふれた食器。
肉や魚を切る為に使われる割には鋒が丸い食器。
仮にも貴族令嬢が並ぶ食卓に用意するものであるからか、総身が毒物に反応する〝銀〟で作られた鈍く光る食器。
──〝カトラリーナイフ〟。
当然4人もユニが見せてきた〝それ〟が、ごくごく一般的な食器の1種である事自体は解り切っていたようだが。
「「「「……???」」」」
さりとて、ユニの問いかけの意図まで理解できているという訳ではないらしく、4人は一様に疑問符を浮かべている。
無理もないだろう、それは誰が見ても食器でしかなく。
食器以外の何と答えれば正解になるのか?
そもそも食器と答えたところで正解になるのか?
……問い返す前から、疑問は尽きないが。
それはそれとして、〝答えない〟という選択肢はない。
あの【最強の最弱職】が、わざわざ貴重な時間を割いてまで自分たちの嚮導役を務めてくれているのに、その厚意を無碍にする事など自分たち風情にできる訳がなかった。
しかし、結局どう答えればいいのだろう。
機嫌を損ねるような解答をしてしまったらどうしよう。
もう2度とない筈の、この機会を棒に振りたくない。
「「「……ッ」」」
そんな感情や思考から来る、3人の沈黙をよそに。
「……ナイフ、ですよね?」
「「「……!」」」
食器として扱おうとそうでなかろうと、少なくともナイフである事に違いはないのだからと、4人を代表して答えてみせたシェルトに対し、ユニは器用にくるくるとナイフを回しつつ。
「ナイフ、ナイフか。 まぁ間違いではないけど、君が言ってるのは食器のナイフだろう? そして、おそらく君たちの答えも。 でも違う。 私が聞いてるのはそういう事じゃない──」
何に見えているか、という問いの答えとしては適切かもしれないが、それはそれとしてユニが求める答えとして不適切であると言わんばかりに〝否〟を突きつけた上で。
「──こういう事さ」
ここは【通商術:安地】の中だというのに、さも当たり前のように休憩する為の家が建っていたり井戸が設置されていたりする中、森とまではいかずとも林くらいは生えている木々に向かって、ユニが〝それ〟を左から右へスッと動かした瞬間。
「「「「……ッ!?」」」」
カトラリーナイフの丸みを帯びた鋒から途轍もなく純度の高い魔力の斬撃が放出され、その斬撃が次々と木々を斬り倒していくのを見た4人は一様に目を見張らざるを得なくなり。
「ま、マジっすか!? 今のって、【剣】の技能の……!」
「【剣操術:斬閃】、でしたわよね……!?」
「武器でも何でもない、ただのナイフで……!」
その現象が、【剣】の随時発動型技能の1つによってもたらされたものだという事自体は理解できていても、どうして食器を触媒にした技能がここまでの威力を誇るのか、そもそもどうすれば食器を触媒にできるのかという疑問は残る。
当然だが、このナイフは単なる〝食器〟。
ユニが錬成した高純度の準食器という訳でもなければ、どこぞの高名な鍛冶師が戯れに打った準武器という訳でもない。
「確かにこれはナイフだよ、それ以上でも以下でもない。 ただ、私はこのナイフを〝食器〟としてだけではなく──」
ユニの言う通り、ナイフ以上でもナイフ以下でもない純食器そのものではあるのだが、どうやらユニはこのナイフを〝食器以外の何か〟だと見立てる事によって技能の発動を可能にしているらしく。
要領を得ていない様子の3人が固唾を呑んでいたその時。
「──……〝武装〟としても、認識している?」
「「「!?」」」
いち早く結論に辿り着いたシェルトの呟きに、3人はまた目を見張りつつもユニの方へ向き直り、そして全てを察する。
「……へぇ、やるじゃないか」
「「「……!!」」」
これこそ、ユニが伝えたかった事なのだ──と。