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狩人講習:1日目・認識の刷新 (上)

 現在、時刻は17時を回ったところ。


「──よし、これくらいにしておこう」


「「「「……ッ」」」」


 要所要所で小休憩こそ挟んでいたとはいえ、およそ8時間近くに亘ってのユニが錬成する人造竜化生物との永遠にも思える戦いは、『ぱんっ』と小気味良く手を鳴らすユニの合図とともに土塊が崩れていった事でようやく終焉を迎え。


「……や……やっと、終わり、っすか……ッ!?」


「あ、あと6日も、これと近い鍛錬を……?」


「かひゅー……はひゅー……」


 今朝までの狩人ハンターでありながらにして貴族然とした装いや気風など何処へやら、まるで平民上がりの新米のように──新米である事に違いはないが──だらしなく肢体を投げ出したり膝をついたりしてしまっているハクアたち3人とは対照的に。


「……ご指導、ありがとうございました……」


「「「ありがとう、ございました……!」」」


 3人に比べればという前提ありきだが、まだ余力は残っていそうな、されど何故か不満げでもあるような感じのシェルトが今日の分の指導に対する謝意を告げた事で、リーダーが頭を下げているのに自分たちが寝転がっている訳にはと3人もまた死に体で礼を述べる中。


「お疲れ。 それじゃあ()()──」


「「「「えっ!?」」」」


 途中から、1匹どころか10匹近くの群れまで錬成しておいて微塵も消耗しているようには見えないユニから返ってきたのは『まだ終わっていない』と暗に示唆する死刑宣告にも等しい言葉であり、4人揃って驚愕と絶望から来る声を上げてしまったものの。


「何をそんなに驚いてるんだい? 最初に言ったじゃないか」


「最初にって──……あっ!」


「〝認識の、刷新〟……?」


 それはユニからすれば当然の事であるとともに、ユニから付け加えられた言葉を聞いた4人もまた即座に初日である今日の課題として挙げられていたもう1つの題目を想起する。


 詳しい事は、その時になってみれば解る──そう言われたまま何の説明もなかった、〝認識の刷新〟という題目を。


「元々はレストランかどこかで食事でもしながらって考えてたんだけど、その様子だと移動するのも難しそうだね」


「い、いえ、そのくらいは……!」


 当初ユニは、2つ目の課題に関しては修練場でやる意味もないだろうと考えていたらしく、せっかくのご厚意を無碍にする訳にはいかない、ユニとの食事なんて貴重な機会を棒に振りたくないという一心でシェルトは口を挟もうとしたが。


「君には言ってないよ」


「う……す、すみません……」


「まぁ、兎にも角にも──」


 ユニが慮ったのは、シェルトよりも戦闘回数が圧倒的に多く疲弊具合も圧倒的に激しいハクアたちであり、シェルト1人が動けるから何だ、そんなのは何の意味もないと吐き捨てられた気がしたシェルトが凹む中、ユニは新たにMP(魔力)を消費し。


「──【通商術:安地(セーフゾーン)】」


「「「「ッ!?」」」」


 本来は迷宮にて竜化生物の眼を盗み休息を取る為の〝安全地帯〟を作り出す商人トレーダー技能スキル、【通商術:安地(セーフゾーン)】を発動。


 突然の事だったから驚いているのも間違いではないが、4人が驚きを隠せないでいる本当の理由はまた別にある。


「こ、これ本当に【通商術:安地(セーフゾーン)】なんすか……?」


「生家のような安心感がありますわね……素敵……」


 そう、それはユニが作り出した安全地帯があまりに快適だった為であり、〝安全地帯セーフゾーン〟どころか〝憩いの楽園(オアシス)〟とでも呼ぶべき広くて素敵な空間に、ある程度は目も感覚も肥えている筈の貴族令嬢たる4人は感嘆の息を吐き、その中心にいくつか設置されていたソファーの方へ招かれていく。


「シェルト様の【通商術:安地(セーフゾーン)】とは()()()()──あっ」


「……」


「も、申し訳、ありません……!」


「……いいのよ、気にしないで」


 決して悪気こそないが、ユニと同じく転職士リワーカーであり商人トレーダーでもある筈のシェルトが展開する、せいぜい緊急用の天幕程度でしかない【通商術:安地(セーフゾーン)】とは大違いだとシェイが呟いてしまうのも無理はないと言えるだろう。


「十数年の貴族生活で肥えに肥えてる君たちの舌に合うかは解らないけど、今日のところはこれで我慢してもらうよ」


「い、いえ、お構いなく……」


 そんなやりとりも相まって少々空気が悪くなっている4人に構う事もなく、ソファーに囲まれるようにして設置されている円卓に次から次へと【通商術:倉庫(ストックルーム)】経由で料理を取り出していくユニを見て、険悪になっている場合ではないと思い直し、4人は配膳の手伝いに移行して。


 そこから1時間ほどは、ただ純粋に食事を楽しんだ。


 己の夢や竜化生物さえ絡まなければ、ユニは男も女も魅了する中性的で性格も良い美少女──美少女と言うには成長も達観もしすぎている気はするが──であり、5人の会話は先ほどまでの疲れ切っていたり若干の険悪さを思わせたりする雰囲気など何処吹く風といった具合に盛り上がっていた。


 そして、ちょうど食事開始から1時間が経過した頃。


「──さて、そろそろ本題に入るとしようか」


「認識の刷新、でしたわよね?」


「そ。 初日の今日、最後に教えるのは──」


 忍者の技能、【忍法術:同形(ブンシン)】にて顕現させた何人かの〝偽ユニ〟に後片付けをさせながらも【通商術:安地(セーフゾーン)】を維持するという離れ業を披露していたユニは、2つ目の課題を修めさせる為に必要な要素として──。


「──〝これ〟だよ」


「「「「え?」」」」


 それまで食事に使っていた、()()()()()を手に取って。


「君たちの目からは、()()()()()()?」


 全く以て要領の掴めない、そんな問いかけを口にした。

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