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狩人講習:1日目・戦力、戦法の確認 (上)

 ──翌朝。


「「「「おはようございます!」」」」


「声、抑えてくれる?」


「「「「……おはようございます」」」」


「おはよう。 それじゃ、ひとまず修練場に行こうか」


 協会ギルドの近所に居を構える王都民の迷惑も考えろ、と至ってまともな注意をされた事で改めて控えめな朝の挨拶をした黄金の橋(ギャッラルブルー)の4人に対する応答もそこそこに、ユニは少女たちを引き連れて協会ギルドへ足を踏み入れる。


 竜や首を問わず、狩人協会ハンターズギルドは一律24時間営業。


 流石に早朝ともあって協会ギルド内の人影は少ないが、それでもユニが入って来ただけで殆ど全員の視線が集まり、そのままユニが引き連れている4人の少女たちへと興味ごと移行する。


 あの【最強の最弱職(ワーストゼロ)】が虹の橋(ビフレスト)や他のSランク以外と一緒に行動する事は極めて稀であり、また見かける事自体も突然変異種ミュータントほどではないとはいえ珍しい事に変わりはなく、『何事か』と誰もが気になって仕方ない様子だったが。


 かと言って昨日の騒動を知る者もそうでない者も、ユニを敵に回してはいけない、必要以上に接触するべきではないと解り切っている以上、結局は声をかける事などできよう筈もなく。


 やきもきとする彼ら、もしくは彼女らの横を悠々と通り抜けたユニたちが向かった先は、昨日の内にセリオスに頼んで貸し切りにしてもらっている筈の修練場。


 普段なら最低でもパーティー2組分くらいの狩人ハンターたちが連携の確認や練り直し、新しい職業ジョブ武装アームズの試行などに励んでいるのだが、この日に限ってはユニたち以外の姿は全く見当たらない。


 どうやら、ちゃんと貸し切ってくれているようだ。


狩人講習ハンターズセミナー初日の今日、君たちに与える課題は2つ。 〝戦力、戦法の確認〟と、〝認識の刷新〟だ。 いいね?」


「前者は解りますけど……」


「認識の刷新、って何なんすかね?」


 4人を整列させた後、ユニが告げた黄金の橋(ギャッラルブルー)が初日にこなすべき2つの課題の内、前者については誰であろうと理解できるところなのは間違いないが、こてんと首をかしげるハクアの言う通り、〝刷新〟なんて漠然とした言い方ではいまいち要領を得ないというのも事実。


「その時になれば解るよ。 じゃあ、さっそく──」


 しかしユニが言うには、ひとまず前者を完了してみせろという事らしく、にこりと微笑みながらそう口にした瞬間。


「──始めようか、対竜化生物の模擬演習(シミュレーション)


「「「「ッ!?」」」」


 一切の予備動作なしにユニの足元から幾重もの方陣が出現するとともに、おそらくシミュレーションとやらの相手なのだろう砂や岩や鉄で構成された1匹の竜化生物が姿を現し。


「りゅ、竜化生物の召喚を……ッ!?」


「いいえ、ユニ様の足元をご覧に! あれは錬成陣ですわ!」


「修練場にある物を素材に、って事っすか……!」


 地上では中々お目にかかれない迷宮を彷徨う者(メイズウォーカー)級の大物の出現に驚きつつも、その正体が【黄金術:生命(アルケミックライブズ)】によって錬成された人造竜化生物である事を少女たちは即座に看破する。


 地面から砂を、壁から煉瓦を、客席の金具から鉄をといった具合に、それぞれを分解して再構築、可能な限り御伽話の中にのみ存在する〝竜〟の姿に近づけた有翼の土塊は、それでも元虹の橋(ビフレスト)の面々なら単独でも3秒以内に倒せる程度の相手。


 しかし相手が新米となると無傷では済まないだろうし、そもそも勝ち切る事ができるのかどうかさえ定かではない。


「皆、冷静に! いつも通りにやればいいのよ! ハーパーが前衛、私とハクアが中衛、シェイが後衛! ユニ様に私たちの戦いを、そして勝利の瞬間をご照覧いただくの!」


「「「ッ、了解!」」」


 それを知ってか知らずか、リーダーであるシェルトはメンバーへの鼓舞と指示出しを同時に行うとともに得物を掲げ、この戦いこそが黄金の橋(ギャッラルブルー)の栄華への第一歩になるのだと宣言し、そんな彼女に呼応するが如く3人もまた得物を手に臨戦態勢を整え。


 人造竜化生物との戦いに身を投じていく中──。


『……未熟、の一言に尽きますね。 あまりに若く、脆い』


「まぁ1年目だからね、こんなものだろうさ」


 今日、ユニの従者を担当する事になっていた熾天使セラフィムのフュリエルが無慈悲に少女たちの練度や培ってきた研鑽の全てを〝未熟〟の一言で切って捨てるのを聞いたユニは、これといって肩を持つつもりのない何とも無責任なフォローの言葉を口にする。


『あの4匹を導く任を引き受けた旨、及び理由についてはテクトリカから大まかに伺っております。 しかしながら、どうにも理解が及びません。 ユニ様の〝夢〟への道程は、斯様な者たちに拘っていられるほど生易しいものなのですか?』


 しかし、どうやらフュリエルはユニの言葉であっても納得がいかないらしく、やはり人間を数えるには相応しくない単位を用いつつ、『この程度の雑魚に構ってやるほど暇なのか』と暗にシェルトたちを遥か高みから見下す旨の疑問をぶつけたのだが。


「その質問に対しての答えは〝否〟だけど、あの4人の嚮導役ガイドを務める事に意味なんてないんじゃないかって問いに対しての答えもまた──……〝否〟だ。 私には、とある未来が視えてる」


『……どのような?』


「あの4人が、トリスたちと同じ──」


 ユニにはユニなりの言い分があるようで、この狩人講習ハンターズセミナーはシェルトたち4人の為である事は疑いようもないが、それ以上にユニにとってもそれなりのメリットがある事に気づいたのだと明かしてから一呼吸置き──。











「──私の夢を叶える為の、〝布石〟に成る未来が」


 今まさに必殺の一撃を叩き込むシェルトを見遣りつつ、ほんの数日前まで仲間だった幼馴染たちを思い浮かべて、そう告げた。

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