狩人講習:0日目
わあわあ、きゃあきゃあと〝憧れの存在〟に対する年相応な反応でユニを取り囲み、サインだの握手だのを求め終えた後になっても離れようとしない4人を見て。
「そろそろよろしいでしょうか。 役者も揃った事ですし、皆様に受けていただく講習についてお話ししたく思うのですが」
「あ……っ、え、えぇ。 そうですね、そうしましょう」
「はぁ……」
こほん、と1つ咳払いしたセリオスから『そのくらいにしてくれ』と暗に釘を刺された事で、ようやく招かれた理由を真っ先に思い出したシェルトを筆頭に、それぞれが元々座っていたのだろうソファーに腰を下ろし。
やっと熱烈な年下のファンガたちから解放されたユニが溜息をつきつつ4人を見渡せる位置にあるソファーへ腰掛けるのを見届けた後、最後にユニと対面になるソファーへ重い腰を下ろしたセリオスは。
「では最初に、狩人講習の概要を説明いたします──」
その言葉で全員の注目が集まったのを確認してから、4人が受講者、ユニが教授者となる講習についての大まかな解説をし始めたが、こちらはすでに先述済みである為、省略させていただき。
「──……といったように最短で1週間、最長で2週間の拘束時間が発生する為、嚮導役を務める狩人のランクが高ければ高いほど受講料も比例して高くなります。 今回は実に2年ぶりとなる〝Sランクによる狩人講習〟、受講料も馬鹿になりませんが……」
先述の内容には挟まれなかった〝受講料〟についての解説において、スタッドを嚮導役にした時も虹の橋が相当な受講料を支払った事実を鑑みれば、まず間違いなくその時以上の料金が──それこそ下位貴族でも容易には支払えないほどの料金が発生し得ると忠告したものの。
「もちろんです! 受講料についてはオートマタ家が私たち4人分を一括で支払わせていただく事になっていますので! 1週間どころか何十日でも何ヶ月でも支障ありません!」
「な、なるほど……?」
どうやらプレシアは各々の生家への交渉材料として受講料の一律負担を申しつけていたようで、おそらくはそれが決め手となって自分たちの娘を護衛とパーティーメンバーを兼ねた竜狩人として差し出すに至ったのだろう、という事を察したセリオスは苦笑するしかなかった。
自分もまた、似たような圧力をかけられていたから。
その後、解り切った事をくどくどと並べるセリオスの説明を4人が真面目に、そしてユニが聞き流す中、ようやく終盤に差し掛かったのか今まで以上に真剣味を帯びた表情でユニの方を向いたかと思えば。
「では、最後に改めて確認させていただきます。 明日からの約1週間、黄金の橋が受講する狩人講習の嚮導役を務めていただけるという事でよろしいですね? 【最強の最弱職】」
「あぁ、構わないよ」
「「「「……ッ!!」」」」
「では明日から、よろしくお願いします」
「「「「お願いします!」」」」
すでに書面による契約は完了しているが、それでも念の為に口頭による約束もしておきたかった彼の言葉に、ユニは特に表情や態度を動かす事もなく無表情で頷いて〝是〟の意を示し、それを見届けた4人はセリオスが頭を下げるのと同時に立ち上がって頭を下げて意欲の高さを見せる。
「よろしく、それじゃあ今日は解散。 明日の朝は協会前の入口に集合、修練場を貸し切って──貸し切っていい?」
そんな4人とは対照的に、ユニはあくまでも平静な様子で今さっき考えた翌朝の集合場所を伝えるとともに、今さっき考えた予定を完了させる為に必要な場所の確保が可能かとセリオスに問いかけ。
「……Sランクからの頼みですし、1日程度であれば」
正直、他のパーティーであれば数日以上も前から予約しなければ不可能だし、そもそも高ランクでなければ予約する事さえ不可能な〝貸し切り〟だが、Sランクのユニであればこそ──SどころかEXなのだが──多少の無理は利いて然るべきだろうと了承し。
「じゃあそれで。 遅れないようにね」
「「「「はい!」」」」
その無理が利く事を前提としてはいるものの、とりあえず初日の予定が決まった事で、この日は一旦の解散となった。