憧れなんて言われても
忍者の少女は【極彩色の神風】を。
聖騎士の少女は【人型移動要塞】を。
賢者の少女は【星との交信者】を。
転職士の少女は【最強の最弱職】を。
そして、4人全員が虹の橋というパーティーそのものを。
といった感じで元虹の橋に憧れて竜狩人になったのだろうという事は、セリオスに言われるまでもなく解っていた。
何ならパーティー名も〝黄金の橋〟だし。
そもそも、こういう手合いは決して少なくなく。
ファンクラブの会員たちのように手の届かぬ場所から憧れるならまだしも、わざわざ向いてもいない竜狩人を目指してまでユニたちに近づこうとする者たちは後を絶たない。
もちろん、ユニもそんな軽薄で軽率な連中に構ってやるほど暇ではない為、関わらないように避けたり悟られないように技能を用いて避けさせたりといった事は日常茶飯事。
資料を見る前は、この4人もそうなのだろうと思っていたようだが──……ユニは少しだけ興味を持ったらしい。
まず、この4人に共通して言える事はと問われれば。
最初に挙げるべきは〝適性の高さ〟だろう。
当然ながら、あらゆる職業や武装の適性がSランクであるユニと──転職士に至ってはEXだし──比較すると劣ってしまうのは事実だが、それでも適性の大半がB以上である事を考えれば優秀なのは間違いなく。
ユニやトリスの足元にも及ばぬのは言うまでもない事ではあるものの、ハヤテやクロマにならば──そう、最後の希望にならば追いつけるかもしれないというのは凡百止まりの狩人では決して有り得ない、まさしく〝希望〟に手を伸ばすに相応しい才覚を持つ期待の新星であると言えた。
次に挙げるとすれば〝基本職のLv〟だろうか。
忍者や聖騎士、賢者といった合成職を解禁する為にはそれらの派生元となる世辞にも能力値が高いとは言えない基本職のLvを30まで上げる必要があるが、逆に言うと30まで上げてしまえば解禁できるのだから、もう基本職で在り続ける必要もなくなり。
大抵の新米は、30でレベリングを終えてしまう。
……まぁ、それも別に間違いではない。
いち早く合成職を手に入れ、いち早く成果を出し、いち早く高みを目指したい──そう考えるのは当たり前の事だから。
しかし、この4人は違った。
今でこそ4人中3人が合成職に就いているが、それぞれの解禁に必要な基本職のLvを最低でも50近くまで上げており、おそらく〝基本職のLvを必要以上に上げる事のメリット〟を知っているのだろうとは推察していても、それを面倒臭がる者も多いと知っているユニからすれば、それだけで多少の好感は持てるし。
おまけに、それをごく短い期間で成し遂げている事実を鑑みても、やはり優秀である事に疑いようはなかったが。
中でも特にユニの目を惹いたのは〝クエストの達成率〟。
竜狩人協会が発注するクエストには複数の種類がある。
ただひたすらに竜化生物を始末する事だけに専念する、竜狩人の基本中の基本と言える〝討伐クエスト〟。
竜化生物を剥製にしたいだとか、毛皮を敷物にしたいだとかで可能な限り傷をつけずに生け捕る事が求められる〝捕獲クエスト〟。
殺しても捕まえても、状況次第でどちらを選んでもいいが、依頼人の意向次第で報酬が変動する〝狩猟クエスト〟。
竜化生物の巣から卵を盗ってきたり、竜化生物が棲息する場所にしか自生しない植物を摘んだりする〝採取クエスト〟。
地上にて新たな迷宮を探したり、まだ国の管理下にない迷宮へ踏み入って調査する〝探索クエスト〟の5種。
それぞれ難易度の差はあれど、そこに共通しているのは〝竜化生物との接敵の可能性が極めて高い〟という点。
竜狩人なのだから当然だろうと思うだろうが、ある程度の経験を積んだ熟練者でも唐突に竜化生物が自分たちを殺す気で、もしくは喰らう気で現れたとしたら面食らった挙句、呆気なく命を落とすというのはよくある事であり。
それを考えれば、この4人がそれぞれソロでクエストに挑んだ際の達成率、及び黄金の橋としてクエストに挑んだ際の達成率は双方ともに目を見張るものであった。
──〝100%〟。
そう、この4人は1度もクエストを失敗していない。
どれか1種類のクエストだけに集中して活動しているという訳でもなく、討伐も捕獲も狩猟も採取も探索も分け隔てなく受注しているというのに、この達成率。
ちなみに、ユニを始めとした元虹の橋の4人や現在Sランクの座に就いている狩人たちの達成率もまた100%。
これから先どうなるかは解らぬものの、少なくとも現時点では自分たちSランクやAランク最上位の狩人にも匹敵するほどの達成率を打ち立てられているというのも事実である以上、いずれ自分たちの足元くらいには及ぶのかもしれないとユニにさえ思わせるほど優秀であったのだ。
……が、しかし。
「けど、これを私に見せる理由が解らないな。 この娘たちが憧れた虹の橋は、もう存在しないのに。 ファンクラブの会員たちよろしく握手やサインでもしてやれって言うのかい?」
それはそれとして、この資料をユニに見せて一体どうしたいのかという当初の疑問は解消されておらず、まさか機密事項まで閲覧させておいて目的はファンサービスだったなどとは言わないだろうなと不審がっていたユニに対し、セリオスは。
「いいえ。 貴女にはこのパーティーの〝嚮導役〟を──」
嚮導役、と称した何らかの役割を与えようとしたが。
「──嫌だ」
「はっ? いやあの、嚮導役を──」
「嫌だ」
「え、えぇ……?」
ユニから返ってきたのは、あまりに徹底的な拒絶だった。