〝EX〟
職業、及び武装のランクは全部で7つ。
素人に毛が生えた程度、卵もいいところな──F。
まだまだ己の職業や武装に振り回されがちな──E。
職業や武装が身体に馴染んできた──D。
ようやく新米を脱却できたと胸を張って言える──C。
新米や卵たちからの注目の的にも成り得る熟練──B。
凡百が目指す実質的な頂点──A。
竜の領域にまで達した怪物たちに与えられる証──S。
以上の7つしか存在しない──……筈である。
しかし、それは正しい認識ではない。
正確には、〝8つ目のランク〟が存在する。
最上位である筈の、〝Sよりも上のランク〟が。
それこそが、竜の領域をも超越した者に与えられる証。
ドラグリアにおいて、同じ世代を生きるたった1人の人間の職業、或いは武装の適性を示すランクの内の1つに現れる証。
──〝EX〟。
職業、或いは武装にそのランクを持つ者は往々にして人間離れした力や技を可能とし、ほぼ全ての場合において技能の欠点をリスクなしに克服し、その者が持つ本来の実力を遥かに超えた働きをも可能としてしまう。
それこそ、最弱職と呼ばれて久しい転職士であろうとも。
……もう、セリオスが口にしてしまってはいるが。
ユニこそが、この世代のEXランク。
EXランクの転職士なのだ。
本来、〝全ての能力値が半減され、技能の発動に必要なMP消費も倍になる〟という転職士特有の致命的な欠陥も、EXランクであるお陰で能力値は半減どころか本職よりも高く、MP消費も最適化されている為。
全ての職業や武装を扱えても、それら全てが本職の完全下位互換である以上、基本的には選ばれる事のない最弱職を本職としていてもなお、ユニは全世界の狩人たちの頂点に立っているのである。
ただ、それ以外の強み──動体視力や並列思考、指の力などに関してはユニが持って生まれた才能であり、そして才能だからと磨き続ける事を怠らなかったがゆえの強みでもあるのだが。
……まぁ、それはさておき。
そもそも何故、職業や武装のランクが基本的に7つであるという事になっているのか、狩人のランクもまた7つまでしか存在しないのか、そのように世界的規模で誤認されてしまっているのかという疑問が残る。
が、その疑問に対する解答は至ってシンプル。
ある世代でEXランクを授かった人間が死んだとしたら、必ず1人は存在する筈のEXランクの持ち主がその世代に居なくなってしまう。
それでは帳尻が合わない、いくら気まぐれとはいえ、と天上の存在がそう考えたゆえなのかそうでないのかはともかく。
早い話、その人間が命を落としてしまったならば。
その人間が命を落とした瞬間から後に生を受けた赤子の中から、〝次世代のEXランク〟が世界のどこかに誕生するのである。
そして、大抵の世代においてEXランクは秘匿される。
当然と言えば当然だろう、その人間を殺せば次なるEXランクの持ち主が自分たちの手が届く範囲に生まれ、その圧倒的な才能を世間には秘匿したまま、そして本人にも伝えぬまま利用し得てしまうからだ。
平民ならばまだいいだろうが、もしも貴族や王族の間で起こったとしたら、その影響力は計り知れない。
全てが自己責任となる狩人ならば、なおさら。
事実、そういった事例もいくつか確認されており。
とある世代ではEXランクを巡り、国と国との大戦にまで発展しかけた事すらあるというのだから恐ろしい。
その時は己がEXランクを授かってしまったせいでと精神を病んでしまった人が、その命を自ら散らした事で何とか大戦の勃発は未然に防がれたが、もうそのような愚行を犯してはならぬと全世界の王族が一時的に結託し。
かの【星との交信者】に対して【賢才術:解放】の発動を禁ずると世界的に決定された時と同様に、〝EXランクを発見した場合、即座にその国の王族が保護、或いは確保し、全ての国への通達後、その国で秘密裏に管理せよ。 管理が不可能だと判断したならば処理処理せよ〟という条約が結ばれた。
そう、ユニはドラグハートに管理される筈だったのだ。
……管理、できなかったが。
そして、世界から処理される筈だったのだ。
……処理、できなかったが。
ユニは、誰の命令にも従わない。
己の夢を叶える為だけに動く。
たとえ相手が王族や貴族、果ては協会総帥であっても。
ドラグハートの王族を通じ、それを否が応にも理解させられた全世界の王族たちもまた、ユニにもドラグハートにも手を出す事は現在に至るまで1度たりともしていない。
当然だろう、ユニを敵に回すという事は。
かの【万の頂に座す王】をも敵に回すという事だから。
しかし今回の離脱騒動に限って言えば、ハヤテたちが行動を起こさずともいずれそうするつもりだった事を考えると、ユニ自身に非がないとも言い切れない為、出頭命令に従ったようだ。
あんまり足蹴にするのも可哀想だし偶には構ってあげようかな──という、まるで我儘で聞き分けの悪い子供を相手取る時のような感情とともに。
Sランクパーティーの解散という己の愚行を棚に上げて。