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輩たちの処分

 協会総帥グランドマスターの座に就く者は、世界に2人しか居ない。


 竜狩人協会(D・ハンターズギルド)と、首狩人協会(B・ハンターズギルド)に1人ずつ。


 協会総帥グランドマスターが持つ発言権や影響力の強さは男爵や子爵といった下位貴族どころか、侯爵や公爵、果ては準王族と言っても差し支えないほどの権力を持つ〝大公〟にさえ匹敵する。


 それこそ、〝さっさと【最強の最弱職(ワーストゼロ)】をこちらに向かわせろ〟という督促めいた出立命令書を、あろう事か女王陛下その人へ送りつけても不敬罪に問われぬほどの立場にあるのだ。


 当然、爵位も何もあったものではない平民出身の狩人ハンターや職員たちも、そして次男や三男、或いは次女や三女であった為に家を継ぐ機会を与えられる事すらなかった貴族出身の狩人ハンターや職員たちも、等しく襟を正して出迎えなけれらばならないほどの立場にあるのだ。


 粛々と階段を降りていった先のエントランスの中央に。


 2匹の突然変異種ミュータントと、【最強の最弱職(ワーストゼロ)】さえ居なければ。


 そして、『はあぁ』と決して浅くない溜息をこぼしながら2匹の突然変異種ミュータントの間をすり抜け、ユニの前に立った彼は。


「……王都を──いいえ、ドラグハートを滅ぼすおつもりですか、【最強の最弱職(ワーストゼロ)】。 ()()()()()()()()()()()()、ただの傭兵マーセナリーを相手取るに相応しい戦力とは思えませんよ」


 まるで他人事のように──実際そうなのだが──ユニが喚び出した2匹の突然変異種ミュータントに背を向けたまま、ここで起きた事を今この瞬間に把握したという事を、どういう思惑からか露骨に言及したうえで『いくら何でも蛮行が過ぎるぞ』と暗に釘を刺したものの。


()()()()とはよく言ったものだね、〝セリオス〟。 君の子飼いは今も私を監視し続けてるっていうのに──()()


「え、あ……ッ!?」


「な、何故……!?」


「……やはり、悟られていましたか」


 彼の──もとい、竜狩人協会(D・ハンターズギルド)第18代協会総帥グランドマスター〝セリオス=ウォルディクト〟の思惑などユニからすれば児戯にも等しく、ふと何気なく発動した【通商術:転送(ポータル)】による2つの出入口から落ちてきた男女1組の姿に、セリオスはまたも溜息をこぼす。


 この2人こそ、ユニが王都に転移してきた時点でセリオスの指示によりユニを監視し続けていた竜狩人ドラゴンハンターたち。


 双方ともにAランクの優秀な盗賊シーフだったようだが、Sランクの盗賊シーフでもあるユニを相手に気取られるなという方が難しいだろうという事はセリオスとしても理解していたらしく。


 失態を詫びる2人に対し、『遅かれ早かれですし』と咎める姿勢を見せない彼の〝良い上司っぷり〟に2人がますます萎縮する一方。


「……さて、【最強の最弱職(ワーストゼロ)】。 そろそろ、あの2匹を引っ込めてもらえますか? 魔力の圧や覇気だけで死者が出かねませんし、そうでなくとも協会ギルドが保ちませんから」


「「ッ!!」」


「えぇ? でも餌あげるって言ってあるからなぁ」


「「……ッ」」


 彼の言葉で突然変異種ミュータントの存在に気がついた盗賊ミュータントたちがセリオスの背を守るようにして臨戦態勢を取る中、『約束を破ってでも帰らせろ』という命令じみた頼みなど、それこそ戦友とも呼べる2匹を裏切ってまで聞いてやる義理はないと語るユニに輩たちはまたしても戦慄する。


 ……〝餌〟、の部分でこちらを見たからだ。


 ユニも、そして2匹の突然変異種ミュータントも。


「代替として、当協会(ギルド)が牧場にて飼育している家畜用の竜化生物──〝猛牛竜もうぎゅうりゅう〟や〝雲羊竜うんようりゅう〟を数匹ほど屠殺します、それを餌として提供する形で事を収めさせていただければと」


「あー、その方が食べ応えあるかもね。 それで良い?」


『WHII』


『CLAA』


 しかし、そんな緊迫した場面の中でもセリオスは努めて冷静に代替案を提示──産卵から始まり、孵化や成育まで手間暇をかけて美味しくなるように管理され、危険性の一切が排除された竜化生物の肉を提供するからと頭を下げる彼に、ユニは2匹の意思を確認。


 ただでさえ体躯の大きな2匹が、この小さな輩2人を喰らった程度で満足する筈もなく──もちろんユニも解ったうえで見せしめも兼ねて食べさせようとしていた──どうせ喰うなら量が多い方が良いと2匹も判断し、頷いてみせた為。


「じゃあ後で届けるから、一旦帰ってくれる?」


『『……』』


「「……ッ、はあぁ……ッ」」


 まるで友達か何かに話しかけるような気さくな態度でそう告げたユニに、もう1度だけ首を垂れた2匹が完全に亜空間の向こうへと姿を消していくとともに空間の亀裂も修復されていき、ヒビ割れが消え失せた瞬間、輩たちのみならずユニとセリオス以外の全員が安堵から息をついたり腰を抜かしたり意識を飛ばしたりしていたのも束の間。


「……何を安堵しているのですか?」


「「え」」


協会ギルド内での武装アームズの展開、及び攻撃系技能アタックスキルの発動は禁止されています。 まして、ここは竜狩人協会(D・ハンターズギルド)の総本部。 本来、状況や空気の1つも読めぬ愚鈍な輩が立ち入っていい場所ではないのです」


「い、いやそれは……ッ」


 さも一件落着といった雰囲気になっているが、そんな訳はないとばかりにセリオスは腰を抜かしている輩たちを見下ろすように睥睨し、その罪は決して軽くないと突きつけるように言い放つも。


 彼らにも彼らなりに言い分があったようで、『だって誰も止めなかったじゃないか』と、狩人ハンターや職員たちの中での暗黙の了解も知らずに愚かにも反論しようと試みたらしいが。


「弁明は私ではなく警察官ポリスに。 まぁ尤も、あちらは貴方がたのような木っ端に構っている場合ではないのやもしれませんがね──……連れて行きなさい」


「「は……はッ!」」


 それを判断するのは自分ではない、弁明する相手を間違えるなと突き放された事で、ただでさえ突然変異種ミュータントの登場で摩耗しきっていた精神に限界が訪れたのかガクッと項垂れ、ようやく事を収められると断じたセリオスの命令に従い、先ほどの盗賊シーフ2人が警察官ポリスの詰所へと連行していった。


 とはいえセリオスが危惧した通り、こんなしょうもない案件に拘っているほど今の警察官ポリス()()()()()()()()によって余裕がない為、正しい裁きが下されるかどうかは不明瞭だが、はっきり言ってどうでもよかったのだ。


 セリオスとしても、ユニとしても。


「では参りましょうか、【最強の最弱職(ワーストゼロ)】」


「そうだね──っと、その前に」


「?」


 そして、いよいよ本題にと言わんばかりにセリオスは床を鳴らして踵を返しユニへの同行を促したのだが、当のユニは何やらやり残した事があるとでも言いたげに振り返り。


「今回の事、必要以上に触れ回ったりしたら──」


 幸か不幸か、この場に居合わせてしまった全ての者へ。


「──どうなるかは、解る?」


「「「……ッ!!」」」


「なら良い、それじゃあ行こうか」


「……えぇ」


 先の突然変異種ミュータントたちの睥睨や唸り声による威圧に迫りながらにして、そこにほんの少しのMP(魔力)消費もない微笑み付きの脅迫を贈り、ぶんぶんと壊れた人形のように首を縦に振らざるを得ない狩人ハンターや職員たちの様子に満足したのか、ユニは改めて歩を進め始める。


 その背中は、とても先刻の覇気を纏っていた狩人ハンターと同一人物とは思えないほど華奢で凛としていて、それでいて誰しもを惹きつける絶対的なカリスマを感じさせるものであった。











『ひゅーっ! ゆにぴカッコいー! イケメーン!』


(……うるさ)


 ……誰にも見えていないとはいえ、ユニ以外の誰にも聞こえていない死霊による空気の読めない持て囃しさえなければ。

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