再び宝具庫へ
竜狩人協会における総本部からの出頭命令書という事は。
この世界における竜狩人全てを統括する〝協会総帥〟からの出頭命令という事であり、たとえSランクの竜狩人たちでさえ正当な理由なしには拒否できない強権じみた命令書でもあるという事。
つまり、ユニでさえ無視はできないという事である。
尤も、ユニは最初から女王への義理を果たした後はそちらの方に顔を出すつもりではあった為、特に加減を損ねる事もなく。
女王と死霊を諫めた後に、そのまま竜狩人協会へと──。
──……向かう、その前に。
ユニの足は、別の方へと向かっていた。
『ねーねー、ゆにぴー! どこ行くのー?』
「ん? あぁ、ちょっとね」
もう少し詳しく言えば、城内のとある場所へ。
そして、そこではとある2人の男女が待ち構えていた。
「相変わらず人を待たせるのが好きね、【最強の最弱職】」
「まぁまぁ、そう言わんで。 なぁユニはん?」
「ふふ、ごめんね2人とも」
かたや露骨に皮肉をぶつけ、かたやそんな皮肉屋を宥めるという漫才のようなやりとりをする2人の大臣、外務大臣のファシネと財務大臣のウェルスに対し、『ごめんね』と謝罪する割にはにこやかな笑みを崩そうともしないユニ。
「……笑い事じゃないわよ全く……それで? ここに来た理由と、ここに私たちが居る理由は解ってるのよね?」
「そりゃね。 色々あったからって有耶無耶にはしないさ」
もちろんユニたちがやらかした事を思えば笑い事ではないというファシネの呟きも正論中の正論なのだが、かと言ってそれの追及に割く時間はないというのもまた事実である為、可及的速やかに事を済ませるべく話を進めようとする外務大臣からの問いかけに、ユニは笑顔のまま目線をファシネから外し。
「迷宮宝具の押収。 3つでいいんだっけ?」
「えぇ、そうよ」
訪れていたとある場所、ユニたちが迷宮の核を破壊した事で元通りとなっていた宝具庫の扉を見やりながら、元虹の橋のメンバーに科せられた処罰の1つを口にしたところ、ファシネはようやく本題に入れそうだと安堵したからか僅かに表情を和らがせる。
「もう決まってはるん? どれを差し出すんかは」
「一応ね。 で、それを君が査定するのかな?」
「そやね。 そんで──」
そして、やはりと言うべきかユニが差し出す迷宮宝具の価値は一定以上のものでなければならないらしく、それを財務大臣としてウェルスが漏れなく査定して換金こそせずとも価値を付けるという事も。
「貴女が、というか【最強の最弱職】が持っていた迷宮宝具のいくつかが国に所有権が移ったって事を諸外国へ通達後、私が窓口になって額面次第で貸与するかを決定するって感じかしら」
「前と同じ流れだね」
「まぁ、そうね」
そうしてユニが国へと所有権を譲渡した迷宮宝具を、〝あの【最強の最弱職】が寄与を拒んだほどの一品〟として外国へ貸し出す際の交渉を外務大臣たるファシネが執り行う事も、ユニは以前に似たような流れで迷宮宝具を寄与した時に把握していた為、大臣2人が待ち構えていても萎縮などしなかったのである。
……尤も、その流れを把握していなかったとしてもユニが大臣風情に萎縮していたかと言われると微妙ではあるのだが。
「諸外国の食指が動かなそうな迷宮宝具だった場合は?」
「査定が良うてもやり直し。 他のでよろしゅう」
「了解、それじゃあ──」
また、以前のような〝寄与〟とは違い〝押収〟である今回は査定した上で基準に届かなかった場合のみならず、たとえ基準に届いていても諸外国の需要を満たせないなら意味がない為、他の何かを押収する事になるという条件を確認したところで。
「どうぞ、ご照覧あれ」
「……へぇ?」
「ほぉ……」
ユニが何気なく発動した【通商術:倉庫】による亜空間から取り出した3つの迷宮宝具に、2人は興味津々な様子で食い入るように査定や吟味をし始めた。