専売特許ではなかった
【極彩色の神風】。
この世界で最も素早く走ると云われる〝迅豹竜〟、つまりは豹が竜化した生物をも遥かに凌駕するSPD。
覚醒型技能、【忍法術:離魂】によって任意のタイミングで位置を交換できる、ハヤテ自身と同じ能力値を有した無数の分身。
他の忍者では真似しようと思っても中々できない、10の属性を巧みに操る【忍法術:五行】由来の合成忍術。
なるほど確かに優秀なのだろう。
最後の希望に名を連ねるというのも頷ける話である。
並大抵の狩人や竜化生物では相手にもならない筈だ。
……だが、しかし。
「ただ1つ、勘違いしちゃいけねぇのは──」
そう、忘れてはいけないのは──。
「【忍法術:五行】。 【風遁】×【雷遁】、合成忍術──」
「は!? う、嘘でしょ!?」
「──【嵐遁:積乱竜】」
「ちょ、待……っ!!」
右手に風の印、左手に雷の印を結んで合わせて全く新しい印を完成させ、【嵐遁】と呼ばれた属性を得て出現した激しい暴風と雷雨で形作られた細身の竜を顕現させた目の前の狩人もまた──。
「──ユニもまた、適性Sの忍者だって事だ」
ハヤテと同じSランクという優れた適性を持って生まれた忍者でもあるのだという事。
そもそも忍者という職業は、他の職業との相違点が2つある。
1つは、基本職から遅れて実装された合成職の中でも殊更に遅いタイミングで追加されただけでなく、22の職業の中で唯一ジークガイアを発祥の地としない異質な職業であるという点。
そして、もう1つは他の全ての職業や武装における原動力が魔力であるのに対し、統一感を持たせる為にMPと表記してはいるものの、忍者だけは〝丹力〟と呼ばれるとある極東の島国にのみ存在する原動力を宿して戦うという点。
その為か、魔術師と盗賊のLvを30ずつ上げて『じゃあ、さっそく忍者になってみよう』と言って即座に使いこなせる狩人は非常に稀なのだ。
が、ハヤテは違った。
……彼女の真名は、〝ハヤテ=ハガクレ〟。
とある極東の島国──〝ヒノモト〟では葉隠と書くその家名を受け継いだ者は男女問わず、他を圧倒する忍者への才覚を持って生まれるという。
尤も、とある事情──包み隠さず言うなら間引きされ、島国から大陸へと様々な人の手を渡った赤子がそんな事を知っている筈もないのだが。
たとえ、それを知らずともハヤテの忍者としての才能は間違いなく歴代でも随一であるし、ここに居合わせた数多の狩人の中で彼女の合成忍術や他の技能、分身まで含めた多面的な攻撃の全てに単独で完璧に対応できる者などそうはいないだろう。
……この場にユニが居なければ、そう断言できただろう。
詳細は後述するが、その殆どが『指』で印を結ぶ事で発動する忍術は、あまりにも──……そう、あまりにもユニに適しすぎており。
内在する丹力の量そのものはハヤテの方が多くとも、実際に忍術として体外へ放出される丹力はユニの方が圧倒的に強く、質も良い。
属性の優劣さえも嘲笑うほどの差があるのだ。
合成忍術も、すでに目で見て盗んでいたのだ。
……ハヤテの専売特許では、なかったのだ。
だから──……こうなる。
「あ、あたしの火口晶が……っ!!」
「Lv差を物ともせずに……!」
「何で転職士があんな……!」
ユニを灼き潰すべく今にも突撃しようとしていた火口晶が、あろう事か転職士が転職した忍者の積乱竜が放つ文字通り嵐が如き息吹1つで消し飛ばされてしまった信じ難い現状に、ハヤテだけでなく修練場に居合わせた殆どの者たちが驚きを隠せぬ中。
(ヤバい!! 【忍法術:離魂】の欠点がここで……!!)
その強すぎる力の代償か、あらゆる覚醒型技能には1つか2つほど必ず欠陥が存在し、【忍法術:離魂】の『覚醒前の技能よりも圧倒的に〝冷却時間〟が長い』という重大な欠陥がここにきて響き。
「おい、あんなのまともに食らったら……!!」
「は、ハヤテちゃん!! 避けてくれぇ!!」
未だ消滅せぬ積乱竜が射線上に居たハヤテごと消し飛ばそうとしている事をハヤテのみならず誰もが悟り、その危機的状況を観覧席から観ているしかないファンたちが目を覆ったり悲痛な叫びを上げるのも束の間。
「ヤバこれ、死っ──」
技能の欠陥に関する思考に時間を割いたからか、それとも単にユニの技能が彼女の技能を上回っていたのかは定かでないが、積乱竜の息吹は躱し切れない規模と速度で以て、ハヤテが立っていた地面ごと抉るように包み込んで──……いく、そんな中にあり。
「──……【護聖術:仁王】」
よっぽど耳が良い者でもなければ何かを口にしていたという事実にさえ気づけないだろう小さな、されど確かに魔力を込めた呟きで以て、トリスが何らかの技能を発動していた事に気がついたのは。
虹の橋以外だと、たった5人だけだったという──。
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