宝具庫、復旧完了
その後、本当に迷宮が崩壊したのかを確認するべくアズールの部下たちを率いていち早く宝具庫へと踏み入った軍務大臣のサベージは、その煌びやかな宝の山を一通り見回り終えたかと思えば。
「完ッ璧に元に戻ってやがるぜ! やったなオイ!!」
「……力と声量、抑えてくれない?」
「そりゃ無理だ! 生まれつきだからなァ!!」
がははと豪快に笑いながら2人と1匹の功績を称賛し、ユニ本人が彼の大声や無駄な膂力に辟易している事にも構わずユニの背中をバシバシ叩く一方。
「……この様子だと死んだのですね? あの傭兵は」
「内務大臣、殿……仰る、通りです……」
「なるほど、それは重畳──おっと失礼」
「……ッ」
かつんとわざとらしくヒールを鳴らして近寄りながら、この場に居ない時点で殆ど確定していると言っても過言ではないヴァーバルの死について言及してきた内務大臣のプレシアが放った、あまりにもあんまりな〝ヴァーバルが死んで良かった〟とも取れる発言に、アズールは歯噛みしつつも沈黙するしかなかった。
竜騎兵団の長とはいえ、所詮は宮仕えの身。
大臣職の人間に歯向かう事などできはしなかったのだ。
……まぁ、それはさておき。
「──アズール、シエル。 そして【最強の最弱職】。 此度の迷宮攻略、及びその破壊。 実に大儀であった」
「女王直々のお出迎えとは贅沢だね」
この場には大臣2人のみならず、まさかの女王陛下その人さえも居合わせていたようで、やはり相変わらずの無表情かつ無感情ではあったが、それでも彼女なりの労いの言葉をかける中にあり。
「女王、陛下……! お伝えせねばならぬ事が多々ありますし、それはまた後ほど報告を上げさせていただきますが……どうか、どうか1つだけ、お聞きいただければ幸甚に存じます……!」
「……手短に話せ」
プレシアとの短い会話の時点でシエルの背から降りていたアズールが、まさしく宮仕えといった丁寧な言葉遣いをするとともに片膝をついて忠誠を示しつつ、そんな立場にないと理解していながらも話を聞いてほしいと嘆願したところ、女王はその鋭い瞳を彼に向けて先を促す。
「迷宮を護る者を仕留めたのは私です! しかし、それはヴァーバルが──失礼、あの傭兵が身命を賭してまで私に襷を繋いだがゆえの功績……! ですので、もし彼に遺族が居るなら恩給を……そうでなくとも追贈を与えていただきたく……!」
するとアズールは、ユニにも告げた〝迷宮を護る者討伐におけるヴァーバルの手柄〟についてを女王に対しても報告し、すでに亡くなってしまった彼に報いる為にも彼の遺族に惜しみない恩給を、もしくは冥界へ堕とされた彼にせめて死後の栄誉をと分不相応極まりない要求をし始め。
「あの生意気な小僧がかァ? どうも腑に落ちねェが……」
「……」
「ん? あぁ」
小僧などという年齢ではなかったように思うが、10も20も離れていれば子供同然なのだろうサベージからの疑いの声も尤もだと捉えたのか、ふと女王が視線を戻してきた事に気がついたユニは。
「私はその現場に居合わせてた訳じゃないけど、あながち嘘でもないと思うよ。 少なくとも──アダマスはそう言ってる」
(……物言わぬ武器が証人になる筈ないでしょうに)
報告は任せると言った手前、助け舟を出さない訳にはいかないかと結論づけて、アズールから受け取っていた大鎌型の迷宮宝具を取り出しつつも、プレシアが思っていた通り証明らしい証明とは口が裂けても言えない証言で以て納得させようとし。
いくら女王陛下のお気に入りとは言っても、先日まで罪人だった男に死後の栄誉など認める筈が──と呆れたように溜息をついたのも束の間。
「……好きにするがいい」
「ッ!?」
「あ……ッ、ありがたき幸せ!」
「流石は陛下、懐が深くていらっしゃらァ!」
数秒の思案の後、女王から返ってきたのはプレシアにとって理外の許可を示す一言であり、アズールが真摯に頭を下げ、サベージが女王の器の大きさを改めて認識できたがゆえの大声を上げる中、女王その人は3人に構う事もなく踵を返してから。
「命令だ、【最強の最弱職】。 明日、私の自室に来い」
「解ってるって、いつものでしょ?」
「……ふん」
振り返る事もせず、そしてユニが断るなどとは欠片も思っていなさそうな揺らぎのない声音で以てそう命じると、ユニも最初から解っていたのか特に疑問を呈する事もなく『了解』と返し。
その返事が気に食わなかったのか、それとも別の感情ゆえなのかはともかくとして、そんな風に鼻を鳴らした女王はアズールやその部下たち、そしてサベージへと簡単に後始末の指示を出した後、プレシアを引き連れて今度こそ現場を後にしたのだった──。
(……確認しそびれましたね、あの事件の事を──)