変わらぬ狩人、消沈する竜騎兵
白色変異種との激闘を終え、【機械仕掛けの神】の召喚を解除した軽傷のユニに対し、その召喚の贄となっていたアシュタルテがボロボロなまま姿を取り戻した後。
肉体的にも精神的にも激しく磨耗した為か、まだ目覚める様子のない彼女の首根っこを掴み、まるで曳航するかのような形で半壊した最奥の空間を後にしたユニは。
『ッ、ユニ殿……!! よくぞご無事で……!!』
『お疲れ、アズール。 シエルもね』
『……CURURUA』
どちらかと言えば精神的な疲弊が大きいように見えるアズールと、そんなアズールを背に乗せたまま特に変化のない声音で返事を返すシエルとの合流を果たし。
『あの白色変異種を、討伐されたのですね……! 流石の一言に尽きます、ユニ殿……! それも、ほぼ無傷でとは──』
まるで太鼓持ちのように──おそらく本人にそんなつもりはないのだろうが──部下たちや竜騎兵団に所属していた竜化生物たちの仇を討ってくれたユニを称賛していたのだが。
『ご機嫌取りはいいよ、アズール。 この場に居ないって事は迷宮を護る者に殺されたんだね? ヴァーバルは』
『……ッ』
そんな彼の声音や表情から褒めたり称えたりといった感情が全く見えてこない事に、そして今ここにヴァーバルの姿だけがない事に最初から気がついていたユニからの核心に迫る問いに、アズールは言葉に詰まるとともに表情を次第に曇らせていき。
『……全ては、私の不徳の致すところです。 油断、慢心、失策……私の不甲斐なき失態の連続で、ヴァーバルは……ッ』
『そっか』
実際には油断も慢心も彼はしていなかったし、失策や失態と呼べるほどの過失を犯してしまった訳でもなかった筈だが、それでも己を咎めずにはいられないらしいアズールの悔しげな独り語りを聞いてなお、ユニの態度は変わらない。
アズールかヴァーバル、どちらかは死ぬだろうと確信していた事もそうだが、【機械仕掛けの神】を召喚した時点で自動的に展開されていた探知機によってヴァーバルの死を知っていたから、というのが最も大きかった。
そして、一連の流れを語り終えたアズールは一呼吸置いてから、己の得物たる鎚矛とは別に背負っていた〝それ〟に手をかけ。
『ユニ殿、こちらを……』
『ん?』
捧げ物でもするかのように〝それ〟を──ヴァーバルの得物であった迷宮宝具、アダマスを両手で恭しく差し出した。
ちなみに彼が持っていたもう1つの迷宮宝具、ケルピーについては迷宮を護る者に殺された際、一緒に喰われてしまったようだ。
『彼奴に引導を渡したのは確かに私です。 しかしながら、ヴァーバルが死の直前に彼奴の血で染まったアダマスを手渡し、【鎌操術:血刃】で必殺の一撃をと示してくれなければ今頃は……』
『つまり、全ては彼の手柄だと?』
『如何にも。 ですので……』
『ま、いいんじゃない? 報告は君に任せるよ』
『ッ、ありがとうございます……!』
そして、ようやく終わったかと思われた独り語りをまたも呟き始めたアズールは、あくまでも迷宮を護る者を討つ事ができたのはヴァーバルの献身あってこそだと主張し、どうかユニの口からもそう伝えて欲しいと頭を下げる彼に、ユニは興味なさげに許可を出す。
彼女の目的が白色変異種へと切り換わった時点で、すでに迷宮を護る者討伐の褒賞やEXPなど正直言ってどうでもよくなっていたからに他ならない。
そんなユニの素っ気ない態度の理由など知る由もないアズールが頭を下げ、おそらく冥界へ堕ちたのだろうヴァーバルへ伝わればいいがと目を閉じる中。
『それより、〝これ〟を早いところ壊さなきゃね。 そこそこのEXPも入るだろうし、私がやってもいいかな?』
迷宮を護る者を討伐し、次なる守護者が再現出するまでの間だけ姿を見せる迷宮の心臓部、迷宮核を破壊して、本来の至上目的たる〝迷宮の破壊と宝具庫の復旧〟を成し遂げるべく。
『ッ、無論です、拒否する理由などございませんゆえ』
『そう? それじゃあ──』
そこそこ──と言っても下位の竜狩人たちからすれば充分すぎるほどに莫大なEXPの獲得を理由に、元々この迷宮を破壊せんと最初に挑んだアズールやシエルが破壊するという選択肢を奪うユニに、アズールは僅かに反応するのが遅れこそすれ肯定の意を示し。
それを受けたユニが目の前の厳かな台座に浮かぶ半透明で菱形の水晶に〝水中銃〟の銃口を向け、引き鉄を引こうとした時。
『ま……ッ、待ちなさい……』
『え?』
突如、背後から聞こえた力ない声でその手が止まる。
ユニにしか聞こえていない、〝悪魔の囁き〟で──。