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【交響楽団】、起動

 鏡試合ミラーマッチの際に、【竜化した落胤(ドラゴンフォールン)】が語ったユニの強み。


 脳内に複数のユニが居て同時に物を考えていると言われた方がまだ納得できるほどの──〝並列思考〟。


 その並列思考で考えてから実際に行動するまでに一切の時間差を発生させない神速の──〝神経伝達〟。


 世界、事象、生物の動きや流れの全てを現実よりも格段に遅く捉えて絶対に見逃さない──〝動体視力〟。


 そして、あらゆる武器より軽く鋭く、あらゆる防具より頑丈で、あらゆる触媒より魔力を通し通さない──〝指〟。


 以上、4つの強みが明らかになっている。


 ……しかし、ユニの強みは全部で5つだった筈。


 少なくとも、リューゲルはそう言っていた。


 だが、そのリューゲル自身も語らなかった5つ目の強み。


 何故、語らなかったのかと問われれば。


 リューゲルがそれを、強みだと思っていなかったから。


 ……思いたく、なかったから。


 当然と言えば当然だろう、ユニの5つ目の強みとは。


 人間であれば、生物であれば持っていて当たり前の──。


 ──……否。


 持っていなければ生物ではないと言い切ってしまっても支障がないと言えるほどの()()()()()を抱かないどころか、そもそも持って産まれなかったが為の強みだというのだから。


 己にとって有害だと感じる事象や生物への根源的な感情。


 それらへの対処が難解である場合に生じる感情。


 その感情とは、つまり──。


           ★☆★☆★


 ちょうど迷宮を護る者(メイズガーダー)1匹分ユニから離れた位置を漂っていた白色変異種アルビノの〝切り札〟──【無垢なる怠惰(ホワイトスロウス)】。


 たかだか3mかそこらといった痩躯から放出された純白なる〝力の塊〟は、およそ4〜50mほどの距離を一瞬で詰め。


 それこそ手を伸ばせば届くところまで迫って来ていたが。


 それでも動じず、ただ冷静に【無垢なる怠惰(ホワイトスロウス)】を見据え。


『殲滅システム、【交響楽団オーケストラ】起動。 演奏指令パフォームコマンド──』


 この局面でなお〝機械の眼〟で分析を続行していたユニは思案の終了と同時に胸部のコア及び砲口とは別の【交響楽団オーケストラ】なる攻撃用のシステムを起動。


 単なる大砲でも仕留められはするが、それだとアズールやシエルまで被害が及ぶくらいに時間をかけてしまう事になると見たのか、その両手に同じエネルギーで形成された〝指揮棒タクト〟を持ち。


 まさしく、これから奏者を導き始めるような姿勢で以て。


『──【福音歌ゴスペル】』


 一層強い輝きとともに核から一点集中型のエネルギー波を放出し、もはや眼前まで肉薄してきていた【無垢なる怠惰(ホワイトスロウス)】へ接触させた。


 一点集中型とはいえ、その直径は少なくともユニ1人分は余裕を持って通すくらいはあったらしく、まるで金属同士を擦り合わせているような甲高い音を発しながら拮抗する中で、それ以外の純白の魔力はユニの身体スレスレを通り抜けていく。


 ほんの少し触れただけでも肉体が消滅し、よほどLvの高い生物でもなければ蘇生はもちろん治癒すら叶わないという徹底的な破壊力と殺意を持った一撃なのは疑いようもないが。


『ッ!? Iッ、EEE……ッ!?』


 ユニの一撃は、その破滅的な一撃を一点とはいえ貫き。


 そのまま白色変異種アルビノが誇る純白の鱗すらも貫いて。


 魔力を遥かに凌駕するエネルギー波により、その命を。


『ッ、EE……ッ!! THIIIIIッ!!』


『一撃じゃ終わらなかったか。 その分、苦しむ事になるよ』


 散らすかと思われた、というよりユニはそう予測していたのだが、どうやらユニの予測を超えるほどの生命力を発揮したらしい白色変異種アルビノは、ユニが漂っている位置ごと呑み込んでしまう為に更なる魔力を注ぎ込もうとし。


 実際その影響で、もはや〝改造生命体サイボーグ〟とさえ呼べる半人半機な状態にあるユニの身体の表面が削られていた事は否定できないものの、それでもユニは〝怖気〟など噯にも出さぬまま〝最強種なせいで死のうにも死ねない〟白色変異種アルビノに同情しつつ。


演奏指令パフォームコマンド──【円舞曲ワルツ】。 さぁ、暴れ回れ』


『TH"I、III……ッ!?』


 だからといって加減などするつもりはないようで、つい先ほどまでとは違うリズムで指揮棒タクトを振るい始めた瞬間、白色変異種アルビノの身体を貫き終えた筈のエネルギー波が軌道を変え。


 1度や2度では留まらず、幾度となく軌道を変えて純白の鱗を貫き続けるエネルギー波の衝撃と痛痒が無限とも思えるほどに白色変異種アルビノを襲い、その息吹袋ブレスタンクを排出したままの口からは痛々しい悲鳴が漏れ出ている。


 しかし、しかしだ。


 白色変異種アルビノは産まれながらの最強種。


『W"I、W"IIIIEEEEEEEE……ッ!!』


『最期の足掻きまで綺麗とは、眩しいね──』


 ユニの言葉通りの最期の足掻き、もう2度と魔力を練る事ができなくなってもいいという強すぎる想いのこもった【無垢なる怠惰(ホワイトスロウス)】は、ついにユニが漂う位置を完全に呑み込んでしまうほどに威力と規模を増幅させていったが。


 もはやリューゲルやフェノミア、スタッドといったSランク狩人ハンターたちでさえ絶望して匙を投げても不思議ではない、この局面でなおユニは対峙する敵を称賛するほどの余裕を見せるとともに。


『けど、これで終わりだ。 演奏指令パフォームコマンド──【鎮魂歌レクイエム】』


 エネルギー波を5本に分裂させ、まるで〝指〟のような位置どりで満身創痍の白色変異種アルビノを逃すまいと取り囲み、そして。


 光速の〝握撃〟により握り潰された白色変異種アルビノは。


『────……ッ』


 断末魔を上げる隙さえ与えられず、その命を散らし。


 息吹袋ブレスタンクの消失とともに【無垢なる怠惰(ホワイトスロウス)】も消えて静けさを取り戻す中、ユニはといえば。


『……はぁ、やっぱり消耗するなぁ。 使わなきゃよかった』


 今さら、〝神の力〟に頼った事そのものを後悔していた。


 倦怠感や筋肉痛などという、しょうもない理由で──。

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