【機械仕掛けの神】
戦争を生き残った5柱の女神と、ユニとの間に起きた事。
それはまた、いずれ詳しく明かす機会を待つとして──。
『何が何だか解らないんだろう? 白色変異種』
『THI、III……ッ』
つい数十秒前まで芽生えたばかりの警戒心と危機管理能力が災いして手を出す事さえしていなかったが、出したら出したで方法も解らず完全に息吹を無力化されてしまい。
ユニの言う通り全く以て理解が及ばず疑問符を浮かべる事しかできないでいた白色変異種は、その大きくはない口から見える鋭い牙を軋ませて悔しげない態度を見せる。
心なしか貌も屈辱で歪んでいるように見える気がする。
そんな白色変異種の心情など知る由もなく──或いは察した上での挑発行為だったのかもしれないが──ユニは手元まで引き寄せた〝鉄か鋼のような金属で構成され、中心から赤熱した光を放つ球体〟を見せつけながら。
『これは──【機械仕掛けの神】。 かつて、ドラグリアで最も発展していたとされる〝機械文明〟。 その文明を司る神であると同時に、文明と民を護る〝究極の機械兵器〟として君臨してもいたんだって』
『……?』
『って言っても解んないか。 まぁ簡単に言うと──』
当時は〝魔力〟を用いた文明などなく、ドラグリアでは最も短い期間で最も優れた発展を遂げたとされる〝機械〟を司る文明の神の名を告げるとともに、その女神が担っていたという役割すらも簡単に解説してやったものの、やはり白色変異種はピンときていない様子。
まぁ当然と言えば当然だろう、いかに白色変異種が優れた知能を有しているといっても、そもそも魚類や竜化生物に信仰などという概念があるとは思えないし。
そして、その事を問い返すまでもなく理解していたユニはといえば、その球体を胸元辺りに寄せつつ微笑んでから。
『──君はもう、終わりって事だよ』
『ッ!?』
一体どういう絡繰なのか、ユニの大きいとは言えない胸の辺りを鈍く、或いは甲高くもある金属音や動力音を唸らせながら開かせていき、そこにある筈の心臓さえもない鈍色の空洞にピッタリと球体を嵌め込んだ瞬間。
つい数瞬前まで生物然としていたユニの身体が先ほども聞こえてきた金属音や動力音とともに変異、顔や首、腕や脚へ薄く頑丈な金属が皮膚を覆うように伸びていき。
その細い背中からは翼や羽と呼ぶにはあまりにも無機質な、それでいて強い煌めきを放つ3対で6枚の光翼が展開され。
胸元で輝きを放つ球体──もとい、〝核〟を中心に〝魔力〟とは違う何らかのエネルギーが集約している影響で白色変異種が漂っている辺りの淡水までもが強く震える中にあり。
『……本当の事言うとさ、こんな努力も才能も全く関係ない文字通りの〝人智を超えた力〟なんて使いたくないんだ。 私が培ってきた、これまでの全部を否定するみたいで。 おまけにやたらと疲れるし』
今やフルフェイスとなっている兼ね合いで表情こそ明瞭には見えないが、その声音からは確かに〝望まざる力を持たされた〟といったような暗い感情を見て取らせ、その力で決着をつけたくはなかったと、ただでさえ今日は随分とMPを消費して疲れてるのにと苦言ばかりが飛び出していたものの。
『けどまぁ、しょうがないよね。 ここは水中、取れる手段も限られる。 それでも手札はなくもないけど、アシュタルテのせいで無駄に時間を費やしちゃってるし。 だから、ね?』
だからといって、その力を使わないとなると余計に時間を食ってしまうし、おまけにアシュタルテが変に我を通そうとしたせいで予定討伐時間をとうに過ぎてしまっている以上、早いところ切り上げてしまいたかったようで。
翼、腕、脚にそれぞれエネルギーを充填、計10ヶ所で充填されたエネルギーが胸元の核へと集約、甲高い音を響かせながら更に圧縮されてくエネルギーの矛先は、もはや言うまでもなく。
『できれば、この一撃で沈んでくれると嬉しいな』
『TE、WHI……ッ!!』
牙を軋ませ相手を睨む、白色変異種を標的としていた。