開始直前、情報公開
職業や武装が持つ技能はそれぞれ──
常時発動型技能:1つ
随時発動型技能:4つ
──の2種に分類されています。
ハルシェの快活な一声とともに、東側の扉からユニが。
そして西側の扉からトリスたち3人が入場した瞬間。
「きゃー! ユニ様ー! 今日も笑顔が素敵ですー!!」
「トリスさーん! どうか僕を踏んでくださーい!!」
「ハヤテちゃーん! ツンデレ可愛いハヤテちゃーん!」
「クロマちゃん頑張ってー! 緊張しすぎないでねー!」
この修練場へ観覧に来たどんな者たちよりも素早く反応したファンクラブ所属の会員たちの声援が、その他大勢の声援をかき消すほどに響き渡る中、当の虹の橋たちの反応はといえば──。
「うっさいなぁ、あいつら……いつもの事だけど……」
少し照れ臭そうにしながらも素直になれず毒づく忍者。
「そう言うな。 騒々しいのは否定しないが、声援もまた力だ」
悪態の一部に同意はしつつも決して蔑ろにはしない聖騎士。
「だよね……ボクは、嬉しいよ? 応援、元気もらえるし……」
性格と同じく控えめでも、ちゃんと手を振って応える賢者。
何とも三者三様である。
「……別に要らないとは言ってないけどさぁ……」
もちろん先述したように照れ臭く感じてもいた為、本当の意味で声援を不要だなどとは思っていないハヤテではあるが、それでも。
「ありがとう、君たちの応援のお陰で頑張れそうだよ」
「「「っ!! きゃあぁああああ!!」」」
「も、もったいないお言葉を……っ!!」
「あそこまで媚び売れっていうのは無理だからね」
「……媚びを売ってるつもりはないだろうがな」
「あれは多分、純粋な好意、だよね……」
わざわざ自分のファンと、おそらくファンクラブの会長だろう女性の前まで歩み寄り、にこりと人当たりの良く、それでいて男女を問わず魅了する中性的な美しい微笑みとともに告げられた感謝の意に、会長を始めとした全てのファンはあまりの悦びから感極まっており。
あんな過剰なファンサービスは自分の趣味じゃないと──尤もハヤテの場合はその辺が男心をグッと来させているのだが──吐き捨てるハヤテとは対照的に、ユニへの理解を示す2人。
事実、ユニは本当に心からああいう風に思って礼を述べている。
なくてもいいが、あるならあった方がいい──程度だが。
「井戸端会議もファンサービスもその辺にしとけ。 外も含めりゃ野次馬どもは数え切れねぇほど居るんだから、これ以上は待たせらんねぇぞ」
「……ふん、ユニのゴマすり待っててやっただけよ」
「あぁ解った解った、そんじゃあ──」
そして、4人の入場から少し遅れてやってきたスタッドからの溜息混じりの声かけに、ハヤテが不満そうに鼻を鳴らして反論してくるのにも慣れていた彼は軽くあしらいつつも、全てのウアジェトの子機に映像を送る役目を持つ親機へと目を向け姿勢を正し。
「長らくお待たせして申し訳ない! 只今より、Sランク竜狩人パーティー虹の橋による3VS1の鏡試合を開始するッ!!」
「「「うおぉおおおおっ!!」」」
「両陣営が位置についている間に、改めて今回の鏡試合《ミラーマッチにおける規則と、4人の現在の職業と武装のLvや適性を公開させていただこう!!」
「「「わあぁああああっ!!」」」
開始時刻を迎えた事と、4人が位置を決めている時間を利用して今回の異質な鏡試合の規則確認、それに連なる4人の職業や武装についてを大陸全土に向けて公開すると発表した。
本来、職業や武装だけならまだしも適性などの詳細は伏せておく事も多いのだが、まぁ今回はやむなしと言えるだろう。
こんな事態を引き起こした虹の橋が悪いのだから。
以下は、3人側の個人情報である。
☆★☆★☆
〝ハヤテ〟 (Aランク、最後の希望)
職業:忍者 (Lv88、適性S)
武装:【爪】 (Lv76、適性S)
【刀】 (Lv64、適性A)
【苦無】、【手裏剣】 (Lv、技能、適性なし)
☆★☆★☆
〝クロマ〟 (Aランク、最後の希望)
職業:賢者 (Lv87、適性S)
武装:【杖】 (Lv83、適性S)×2
☆★☆★☆
〝トリス〟 (Sランク)
職業:聖騎士 (Lv94、適性S)
武装:【盾】 (Lv100、適性S)
【槍】 (Lv91、適性A)
【銃】 (Lv87、適性A)
☆★☆★☆
そして最後に、ユニが使用可能な職業と武装のLvや適性が公開される。
転職士が持つたった2つの〝随時発動型技能〟、自他問わず職業を自在に切り換える【転換術:転職】と、自他問わず武装を自在に切り換える【転換術:換装】を用いて扱える職業と武装のLvや適性は。
☆★☆★☆
〝ユニ〟 (Sランク)
転職可能職業:忍者 (Lv68、適性S)
賢者 (Lv72、適性S)
聖騎士 (Lv59、適性S)
換装可能武装:【爪】 (Lv100、適性S)
【刀】 (Lv96、適性S)
【苦無】、【手裏剣】 (Lv、技能、適性なし)
【杖】 (Lv39、適性S)
【盾】 (Lv80、適性S)
【槍】 (Lv85、適性S)
【銃】 (Lv100、適性S)
☆★☆★☆
「──……でも能力値だの技能の威力だのは半減なんだろ? どんだけLvと適性が高くってもなぁ……」
殆どの観客たちが4人のLvや適性の高さに舌を巻く中、転職士という職業そのものに偏見を持っているらしい他国からの竜狩人の本心からの呟きをぽろりとこぼす中。
「っとに解ってねぇな、どいつもこいつも……」
「えぇそうね。 ほら、始まるわよ──」
それを偶然にも耳にしたリューゲルとフェノミアは互いに呆れから来る溜息をつきつつも、2人の為に用意された特別席の近くに座っていた6人、白の羽衣の面々に向けて。
「「──【最強の最弱職】の蹂躙劇が」」
説明されずとも誰を指すものなのかが解る、その二つ名の主による一方的な戦いの始まりを予見した。
「よし。 お前ら、準備は良いな? 覚悟はできてるな?」
「もちろん」
「さっさと始めてよね!」
「わぁったよ! そんじゃあ、お待ちかねの鏡試合──」
そして今、スプークを始めとした魔導師たちが技能に依らない半球状で半透明な魔力の結界を展開し終え、それを見届けたスタッドからの確認の声に両陣営ともが呼応した事で全ての準備が整ったと見た彼は、いよいよだとばかりに筋骨隆々な右腕を高く掲げ。
(っと、目にゴミが──)
ちょうどその時、白の羽衣の武闘家が微風に運ばれてきた埃か何かが目に入った事で、ほんの一瞬ぱちりと瞬きをしたのだが。
「──始めッ!!」
彼は、その一瞬を深く後悔する事となる。
何故なら、スタッドが開始を宣言するその直前まで4人は一様にそれぞれが決めた位置についていた筈だというのに──。
「っい、あ"……っ!!」
「……はっ?」
いつの間にか、ユニが右手だけでハヤテの細い首を掴んで持ち上げたまま。
「……流石に防ぐか」
「これくらいはね」
もう片方の手に装備していた円盾で、ユニを横薙ぎにしようとしていたトリスの鋭い斬れ味をも併せ持つ盾による一撃を防ぎつつ。
『『うぅ……っ』』
ハヤテが発動した忍者の技能、【忍法術:同形】によって現れたと見られる2体の分身を、おそらくユニは迎撃し地面に転がして消滅寸前まで追い込み。
辺りに苦無と手裏剣がいくつか落ちている事を考えると、2人の攻撃に対処しながら、ハヤテとハヤテの分身が投擲した己より遅い飛び道具をも完璧に捌き切ったのだろう。
「やっぱり、凄い……」
大した変化がないのは構えを変えているクロマくらいか。
……彼は、ここでようやく真に理解した。
「何やってんだ俺は……!!」
この鏡試合が、瞬きさえも許されぬ激闘になるという事を。
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