最弱職と最強種
──ユニは、常に〝手札〟を切らさない。
いつ何時であろうと、どんな環境であろうと。
多少の誇張こそあれ、星の数ほどの手段を備えている。
転職士は紛れもない最弱職であり、9つの能力値全てが最低のFランクに相当する、ほぼ選ばれる事はない基本職。
だが、ユニの転職士への適性は〝Sランク〟であり。
おまけに転職士以外の6つ基本職の適性も、15の合成職の適性も武装の適性も、その全てがSランクであった為。
他の狩人が転職士に就いた際に発生する欠陥がユニを苛む事はなく、ユニ自身が狩人になる前から鍛えていた武装技能による手札の潤沢性と潤滑性とを更に加速させていき。
養成所を卒業後、正式に竜狩人となって僅か4日でSランクへと昇格した彼女は、いつしか【最強の最弱職】などと呼ばれ畏敬の念を抱かれるようになったのだった──。
──……というのが。
この世界で一般的に知れ渡っている、ユニの情報。
どういう意味だ? と思うだろう。
しかし、何も難しい事は言っていない。
ユニは間違いなくSランクの竜狩人。
他の職業や武装の適性も、その全てがSランク。
だが、転職士の適性は──Sランクではない。
Sランクだという事になっている。
本当のランクを知られる訳にはいかないから。
……知ったところで、理解はされないだろうから。
とはいえ、ユニが最高にして最強の狩人だという事実は決して嘘でも冗句でもなく、それこそアシュタルテやフュリエルですら手も脚も出ない白色変異種を前にしても、その表情や声音に一切の動揺は見られない。
決して──……決して、勝利を確信している訳ではない。
ただ、この無垢なる絶対強者を討伐した際に得られるだろうEXPによる急激なLvの上昇が楽しみで仕方がないようだった。
対するは、7種の突然変異種の一角──白色変異種。
突然変異種とは先述した通り、およそ100万分の1ほどの低確率で地上や迷宮を問わず、そして蠢く者か彷徨う者か統べる者か護る者かさえ問わず自然発生するという、人間にとっても動物にとっても竜化生物にとっても厄介な異分子。
また、その一目で突然変異種だと解る容姿もそうだが。
7種の突然変異種は、それぞれ特殊な能力を持っている。
どれもこれもが竜化生物という、そもそも人間や動物を遥かに凌駕する存在にすら不可能な規格外極まる能力。
その一角、白色変異種の能力とは──。
★☆★☆★
場面は、ユニと白色変異種が対峙する戦場に戻り。
『──THIIE』
『ッ、私ごと──』
先ほどと全く同じ威力と規模、速度で以て放出された純白の息吹は〝敵〟と定めたユニのみならず、せいぜいが〝動く的〟止まりなアシュタルテさえも呑み込まんとしており。
それを嫌でも理解させられたアシュタルテが再び肉体を変異させ、あの魚雷よりも更に強力無比な兵器を展開しようとした時。
──チッ。
(えっ舌打ちした? この娘が?)
この1年、表情を大きく変化させる事はおろか言葉尻へ感嘆符の1つさえ付けぬほどに落ち着き払ったユニしか見た事のなかったアシュタルテは、ユニの方から聞こえてきた吸着音に驚いてしまう。
やはり、それほどの相手なのか──と。
尤も、ユニが舌打ちした本当の理由は〝この規模だとアシュタルテも狙いに含まれており、この速度だとアシュタルテは回避できない為、助けなければならない〟という事実を面倒がっていたからなのだが。
『行くよ、アシュタルテ』
『ちょ──』
そんな彼女の驚愕や困惑など知る由もないと言わんばかりにユニは、あの魚雷を発射した時から実体化していたアシュタルテの腕を掴んで、すでに展開を終えていた【通商術:転送】の入口へと無理やり引き摺り込み。
(ッ、あの一瞬で白色変異種の真上に転移を……!!)
その出口が、ちょうど息吹を吐き出し終えた直後と見える白色変異種が浮かぶ少し上に設置されている事に気づき、あの短時間では自分の位置を示す座標を指定する事さえ難しい筈なのに、こんな離れた位置の座標まで──と改めてユニの人外さ加減に驚く中。
(理想は一撃、妥協ラインは失神、回避と反撃を警戒──)
いつの間にか、またしても【黄金術:武装】で錬成して変異させた右脚を振り上げ、その巨大かつ頑丈そうな【槌】に魔力を込めつつ、おそらく気づかれているだろうという事を前提として思考を巡らせながらも攻撃しようとした、その時。
『……ん?』
ユニの視界に、やたらと濃くなった己の影が映った。
その事実は、ユニが居る位置よりも更に上から何らかの要因によって〝明度の高い光〟が発生したという事を示しており。
ほぼ同時にアシュタルテも事態を悟り、ふと見上げると。
『……ッ!? 何で上から息吹が……!!』
切羽詰まったアシュタルテの言葉通り、前方にしか放たれていなかった筈の純白の息吹が真上から、しかも大小様々な規模で以て雨のようにユニたち目掛けて降り注いできていた。
それを見て、ユニは一瞬で全てを悟る。
『……やられたね、まさか読まれてたとは』