守護者の一撃
余談だが、迷宮を護る者の息吹は迷宮を彷徨う者や地上個体が放つ息吹とは威力や規模が異なるのはもちろん、あまりにも大きく決定的な相違点が存在する。
その相違点とは──……〝性質〟。
迷宮を護る者という竜化生物は、ただただ巨大な魔力の塊を特殊な臓器へ充填して吐き出す地上個体や迷宮を彷徨う者とは、その特殊な臓器──息吹袋の構造からして一線を画しており、そこに上述した相違点が関与してくる。
結論から言ってしまうと、迷宮を護る者の息吹袋はそれぞれが充填した魔力に〝性質〟を付与してから吐き出させるという一層特殊な臓器となっていて。
全てを焼き尽くす劫火を放つ個体、全てを凍てつかせる吹雪を放出する個体、全てを押し潰す巨岩を吐き出す個体、全てを蝕む毒煙を吐く個体、と属性1つ取っても多種多様となっているかと思えば。
半透明な障壁を吐き出して身を護る個体、普通の息吹と似た魔力の塊をぶつけて能力値を低下させる個体、といった風に属性とは無縁の性質を有する事もある。
それは、迷宮の主にのみ許された〝絶対なる個性〟。
7種の突然変異種にすら不可能な〝超越する個性〟。
Lvや適性次第ではあるものの、対象のあらゆる情報を看破する商人の技能、【通商術:鑑定】でさえ迷宮を護る者の息吹が如何なる性質を有しているかを見抜く事だけはできず。
また、狩人における職業の1つである竜操士も技能によって息吹袋を作り出して息吹を吐き出す事はできるが、それは単なる〝指向性を持った魔力の塊〟止まり。
覚醒型などと銘打っていても、地上個体や迷宮を彷徨う者が放つ〝弱い方の息吹〟の真似事でしかないのだ。
……それでも充分だろという話はさておき。
当然ながら、この迷宮の主の息吹も決して例外ではない。
アズールは〝息吹の性質〟に対しても常に警戒を怠っていなかったのだが、まさか絶対強者たる迷宮を護る者が擬死を──〝弱者の真似事〟をしてまで自分たちを排除せんとしているとは思わなかったらしく。
更には1回目の戦闘で息吹《ブレスを吐き出させるところまで至らなかった事も相まって、アズールの警戒心が何の意味も為さなかったという事があまりにも致命的であったようだ。
そして今、2人と1匹が回避行動も臨戦態勢も整える事ができぬまま迷宮を護る者はMPの充填を終え、ぽっかりと開けた大きな口から見えた〝それ〟に。
『『……は?』』
『……ッ?』
驚愕や恐怖より先に、唖然とする2人と1匹。
……それも無理はないだろう。
彼らが見た〝それ〟は劫火でも吹雪でも巨岩でも毒煙でもなければ、障壁でも息吹に似た状態悪化でもなく──。
『つる、ぎ──』
嫌味なほど白銀の光を放つ、巨大な刀身を持つ剣だった。