Prologue:The Dragonoid's World.
本日から投稿開始の新作です!
いわゆる『俺TUEEE』モノではありますが、主人公以外の登場人物も大概最強なのでバランスは取れてるんじゃないかなと思ってます!
以前に投稿した短編から登場人物の名前と姿、スキルの名称などが変化しているものの、おおよその設定自体はそのままですので短編も一応残しておきます!
それでは、どうぞ!
──その世界には、〝竜〟が棲む。
ある種は雄大なる2枚の翼で大空を舞い。
ある種は逞しい四肢で大地を踏み鳴らし。
ある種は流麗な鰭で大海を優雅に揺蕩い。
そして、ある種はその全てを携え絶対的な頂点捕食者として世界各地に君臨している。
見る者を惹き付ける煌びやかな鱗とは裏腹な禍々しき牙と爪、或いは角を研ぎ澄まし。
あらゆる生物の意思疎通能力を解し、そして操る事も可能な知能さえ併せ持つ彼らは。
山で、森で、谷で、海で、空で。
喉を鳴らして、餌を待つ。
それが、〝竜〟と呼ばれる生物の特徴。
御伽噺に登場する、架空の生物の特徴。
ここで少し、前言を訂正させてほしい。
その世界に〝竜〟は──棲んでいない。
だが、それに近しい生物は棲んでいる。
先述した、〝竜の特徴〟を携えた生物が。
ある種は翼と角を生やした犬のような。
ある種は鱗が如き甲殻を持つ蟲のような。
ある種は骨格が竜に近づいた魚のような。
そして、ある種は肉体や臓器の一部だけが竜の特徴を得てしまった人間のような──。
──……ほら、そこにも。
☆
『──シャアァアア……ッ』
『きゅー! きゅいぃ!』
『きゅうぅ……っ』
ある程度、自然が豊かな地であれば見かける事もあるだろう野生の蛇と兎の食物連鎖。
かたや肉食、かたや草食。
雄の兎が、どうやら番であるらしい雌の兎の前で威嚇し、どうにか追い払わんとする。
しかし、捕食・被捕食の関係は崩れない。
『シュイィッ!』
『きゅ、ぎ……っ』
『きゅー……!』
常通り、兎が蛇にぐるりと巻きつかれ。
入念に骨を砕かれてから丸呑みにされる。
──……筈だった。
みしみし、ぱきぱきと生々しく痛々しい音を立てながら、その儚い命を散らす筈だったのに。
『きゅ、い? ぎ、ぎぎ、ぐ、あ──』
『シィィ……ッ!?』
どういう絡繰か、ぐるぐると巻き付かれていた兎の小さく頼りない身体が段々大きく膨らんでいき、されど決して風船のように突けば割れる軟弱さを感じさせない突然の変化に蛇は危機感を抱いて兎から距離を置く。
『きゅ、きゅう……?』
そして、その一連の流れを震えながら見守る事しかできていなかった雌の兎がいかにも心配そうな声を上げる中。
強く大きく膨張するだけでは飽き足らず、つい先程までボロ雑巾のようになっていた筈の兎は、まるで今この瞬間に生まれ変わったかの如く美しく、そして凶暴に形を変えて――。
『──……Raaaabiiii……』
『シ、アァ……ッ』
今や翼の役割さえ併せ持つ両耳が長く垂れ下がり、もはや熊だの牛だのといった図体にまで膨張した兎の口には、およそ草食動物ではありえない鋭く凶悪な牙が生え揃っており、ぐろろろと喉を鳴らすとともに漏れ出た威嚇の声に、蛇は一瞬で捕食・被捕食の関係が逆転した事を察したが。
『~~ッ! シュアァッ!!』
だからといって引き下がる事などできはしなかった。
ここで無様に遁走してしまったならば、今後いかに弱い獲物を相手取っていたとしてもこうなったが最後、無様に逃げ出す癖が染み付いてしまうだろうと本能で理解したからだ。
……もし、ここで『弱肉強食』という野生動物なら備えていて当たり前の本能に従えてさえいれば。
彼の寿命は、もう少しだけ延びていたのかもしれない。
だが、もう何を言っても遅い。
彼は自ら飛び込んでしまったのだ。
己の命を絶たんとする、断頭台へと。
『biiiiaaaa!!』
『ジ、ア゛ッ――』
瞬間、その図体からは考えられないほどの俊敏な動きで蛇を迎撃するとともに喰らいつき、もはや断末魔を響かせる事さえ許されずに貪られていく哀れな元捕食者の姿を垣間見て。
『……きゅ、きゅー……?』
『……Rabi?』
番が無事だった事を喜べばいいのか、まだ僅かに息があるというのにズタズタに引き裂かれていく蛇に同情すればいいのか、それとも――そんな複雑極まる感情の入り混じったか細い鳴き声に反応し、蛇の血肉で染めた恐ろしい貌で振り向いた兎だったものは、かつては疑いようもなく番だった筈の雌を見て――だらりと涎を垂らす。
無理もないだろう。
もう、この2匹は番どころか同種の生物ですらなく。
捕食・被捕食の関係にあるというだけの。
赤の他人に成り果ててしまったのだから。
『Raaaabiiii――』
そして今、眼前で震えながらも番が正気を取り戻してくれると信じてやまない雌を完全に『餌』だと認識した兎だった何かが蛇1匹だけで食欲を抑えられるわけもなく、その凶暴極まる大きな口を開いて丸呑みにしてしまおうとした。
そう、丸呑みにしようとした筈なのだ。
『……bia?』
しかし、いつまで経っても口には何も入って来ない。
何の味も口内に広がらない。
それどころか、つい先ほどまでは不必要なくらいに明瞭だった思考が段々と鈍く、そして視界さえも段々と狭く暗くなっていくように感じる。
明らかに、己の身に何かが起こっている。
そう思い至った瞬間、真後ろから彼の鼓膜を誰かの呟きが揺らす。
「Lv35の〝跳兎竜〟……〝竜化〟直後にしては中々だけど、この程度じゃ何の足しにもならないな」
『a、aa……ッ?』
その声からは抑揚らしい抑揚が全く感じられず、まるで作業の最中にあるかのように淡々と『Lv』だの『竜化』だのという聞き馴染みのない言葉を並べるだけ。
しかし、それでも1つ解った事がある。
――……侮られた。
その思考に辿り着いた途端、彼の貌は憤怒の色に染まり。
『……ッ!! Ra、aa――』
何故か動かしにくくて仕方ない首を、どうにかその声がする真後ろへと向けるとともに、何かを声の主に対して放とうとして口を大きく開いた瞬間。
「――〝息吹〟は使えないよ。 首から下がないんだから」
『Bi、ii……ッ?』
彼が口から放とうとしていた何かの正体が、今の彼のように竜化した生物――〝竜化生物〟だけが可能とする、体内のとある内臓器官に充填させた〝魔力〟を光線として解き放つ〝息吹〟と名付けられた攻撃だったと一瞬で看破された事に、跳兎竜は驚き目を剥いた。
……わけではない。
いや、確かに先読みされた事にも驚いてはいたのだろう。
あの一瞬で首を刎ねられたという事実に気づいたというのも大きい筈だ。
だが、彼が目を剥いた最も大きな理由は別にある。
『っ、きゅ、う……っ、きゅあぁああああ……っ!!』
それまでは、どうにか番を信じたい一心でこの場に留まっていられた筈の雌の兎が甲高い悲鳴を響かせ脚をもつれさせながらも遠くへ遠くへ逃げていった事からも解るかもしれない――。
――そう。
恐ろしいのだ。
絹の如き銀色の長髪に冷徹な金色の瞳、テンガロンハットを目深に被った旅人のような風体で。
今や数10Kgはあろうかという己の首を、その長く垂れ下がった耳を片手で掴んで持ち上げている長身かつ中性的な人間が纏う、とても人間のそれとは思えない絶対強者の覇気が恐ろしくて堪らないのだ。
瞬間、彼は酷く後悔した。
息吹で一矢報いる事など考えず、さっさと自分で舌を噛み千切るなり何なりして命を絶っておきさえすれば、こんな恐ろしい存在に殺されたのだと知らずに済んだのに――と。
『Ra、biaa……ッ』
そして彼は遺言とでも言わんばかりに何かを口にし、どうせ通じないからと吐き捨てたその罵倒を。
「――……『怪物が』、か」
『ッ!?』
眼前の人間は、あっさりと看破してみせただけでなく。
「よく言われるよ。 不本意だけどね」
『i、iii……ッ』
本意でこそなくとも、『怪物』と呼ばれるだけの強さがある事は否定しないといった口振りに。
彼は今度こそ深く絶望しながら、たった数分の竜化生物としての生涯に幕を下ろす事となった。
「やっぱりLvは上がらないか、この程度の〝EXPじゃ」
これは、どこまでも己の夢を叶える為だけに竜を狩る1人の麗しくも怪物じみた強さを誇る〝竜狩人〟と――。
『あら、解ってた事でしょ? 地上個体なんてそんなものよ』
「そうだね。 それじゃあ寄り道はこれくらいにしようか――〝アシュタルテ〟」
『えぇ、そうしましょう――〝ユニ〟』
「行こう、まだ見ぬ新たな〝迷宮〟へ」
――そんな狩人に憑いて回る、3柱の人ならざる者たちが織り成す物語である。
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