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仲間

 ヘナヘナと座り込んだ葵に、後ろから男性の声が飛んできた。


「おい、大丈夫かお嬢さん!」


 振り向くと大柄でガタイの良い、中年の男性が走ってくるところだった。


「こんなところで座り込んでるとまた襲われるぞ!とにかく街に入れ。立てるか?」


 そう言った男性は葵の目の前に立って手を差し出した。手を取るか迷った葵だが、腰が抜けて足に力が入らないので、素直にその手を取ることにした。


「お嬢さん、この辺のもんか?家が近いなら送っていくが。」


 いかついけれども優しそうな人だ。申し出はありがたいが葵はこの世界の人間ではない。どう答えていいか迷っていると、お腹の方から声が飛ぶ。


「オッサンありがとうな!俺達は遠くから来たんだ。この辺でメシ食えるところある?もう俺腹減って仕方ないんだよ。」


 アンディだった。葵は初対面の相手にもフランクすぎるアンディに唖然とした。


「おいおいお前喋るのか!モフモフしてて可愛いのに喋り方は中年のオッサンみたいだな…。そうかこの辺のモンじゃないのか。だったらちょうどいい!俺の仲間が飯屋で待ってるから、二人ともついてくればいいさ!そうだ、俺はラークだ。気楽にラークって呼んでくれ。」


 ラークと名乗ったその男性は、アンディが喋ることもすんなりと受け入れた。豪快で細かいことを気にしない性格なのだろう。葵も名乗らなければと思い、


「大沢葵です。この子はアンディ。子っていうにはもう大分とうが立ってるかもしれないんですけど…。」


 葵がおずおずと名乗ると、ラークはガッハッハと笑って、


「とうの立った獣か!こりゃ面白い!そういえばお前なんて生き物だ?モンスターとは違うようだが。」


 ラークがそう言って首を傾げてアンディを見る。いかつい男性が首を傾げる姿は意外と可愛く見えて、葵はなんだか気持ちが暖かくなる。


「俺は犬だぞ。この世界に犬はいないのか?」


 アンディは不思議そうにラークに尋ねている。ラークはううん、と唸ってアンディを見、相好を崩す。


「俺が知ってる限りでは、犬はだいたい立ち耳だ。こんな下がった耳の犬は初めて見るなあ。」


 どうやら犬は存在するようだ。立ち耳ということは日本犬のようなものだろうか?と考えたが想像がつかない。地球での犬はバリエーション豊かな姿をしているので、どれに当てはまるのか想像がつかないのだ。


「まあこんなところで立ち話してるとモンスターが襲ってきて危ないしな。すぐ街へ入ろう。それで俺の仲間たちと合流すればいい。これもなにかの縁だしな。」


 ラークに促されて、葵は街へと足を向ける。灯りの付いた城壁のある大きな街は、自分を守ってくれるようで頼もしく思えた。

 

 ラークについて街中を歩くと、そこはまるで西洋のテーマパークのようだった。いつもゲームで眺めている世界だが、リアルで見るとこんな風なのか、と、葵は息を呑む。

 そして、ラークが案内してくれた店に到着する。看板にはビールのようなイラストが描かれている。


「えっ、ここって居酒屋!?待って私未成年なんですけど!」


 葵は慌てて自分が未成年だと主張するが、ラークはかまわずズンズンと中に入って行ってしまう。葵は仕方なくラークの後を追った。

 ラークは店の真ん中の席で足を止めた。そこには若い男性と女性がいる。二人共金髪碧眼で葵の美的感覚からすればとんでもなく美しい人たちだった。こんな美しい人達と出会ったことのない葵は一気に緊張する。


「ラークさん、この方達が仲間なんですか?」


 恐る恐るラークに聞くと、ラークはにかっと笑って見せる。


「そうだ!こいつが俺の甥でアルス、こっちが姪でフリージアだ。アルスが剣士でフリージアが弓使い。ちなみに俺はアックス使いだ。俺たちは旅商人で、街から街へ旅をしながら暮らしてる。」


 そう言うと、今度はアルスとフリージアに葵を紹介してくれる。


「このちんまいのは葵だ!あとこのモフモフはアンディ。遠くから来て困ってるそうだから、助けてやりたくてな!」


 そうラークが言うと、アルスがはあ、と大げさにため息をつく。


「あのなあ叔父さん。人助けは良いけど勝手にいなくならないでくれよ!街に着くなり『先に居酒屋に行っててくれ』なんて言って勝手に走り去られたら、心配するだろう!」

「いやあ悪い悪い、目の端に葵がモンスターに囲まれてるのが見えたからつい走って行っちまった。」

「目端が利くのは叔父さんの良いところだけどさ…。それで、葵って言ったか。これからどうするんだ。遠いところから来たって言うけど、一人旅か?」


 美形に詰め寄られて葵は萎縮してしまう。どう、と言われてもスオウはスオウ自身を倒すかゲームがサービス終了するしかここから出る手段はないと言っていた。問題は葵が支援職のビショップだということだ。ソロでは火力が心もとない。回復しながら旅をすることは出来なくはないだろうが、スオウを倒すのには火力が足りないだろう。誰か仲間を探すしかない。

 だが、そんなことを話してこの人達は納得してくれるだろうか。でも全部話す以外に方法もなさそうだ。

 

 仕方なく葵は、ここがゲームの中だということだけは伏せて、自分が日本という異世界から来たこと、戻るために神様を探して旅をしなければならないこと、だが今はどこに向かっていいのかさえ分からないことを三人に話すことにしたのだった。

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